一人旅

汚れなき祈りの一人旅のレビュー・感想・評価

汚れなき祈り(2012年製作の映画)
4.0
クリスティアン・ムンジウ監督作。

『4ヶ月、3週と2日』(2007)、『エリザのために』(2016)のルーマニアの鬼才クリスティアン・ムンジウが2012年に演出を手掛けた作品で、2005年にルーマニアで実際に起きた女性監禁致死事件を題材としています。

ルーマニアの田舎町の丘の上にある修道院で神父や他の修道女たちと信仰中心の暮らしを送っている若き修道女ヴォイキツァのもとに、同じ孤児院で育った無二の親友アリーナが遥々ドイツからやってきたことを発端にして、修道院での滞在の中で精神に不調が生じやがて正気を失ったアリーナを救い出すべく、彼女に対して“悪魔祓い”の儀式を行うことを決断した神父ら修道院の人々の行状を見つめた“信仰+集団心理サスペンス”となっています。

一人の苦しむ女性の為を思って行った悪魔祓いが裏目に出て取り返しのつかない悲劇をもたらしていくまでの過程を、ムンジウらしい淡々としたリズムと静謐な映像感覚で映し出した作品です。悪魔祓いという行為の始発点は、正気を失った女性を救いたいという神父たちの紛れもない“良心”であり、聖職者である彼らの心の中では悪魔祓いこそが彼女を救い出す唯一の手段でした。世俗の人々と神に仕える人々との善悪の基準の絶望的なまでの相違を弛まぬ緊張の中にまざまざと見せつけた心理サスペンスで、主演のコスミナ・ストラタン&クリスティーナ・フルトゥルの対照的な熱演は二人にカンヌ映画祭女優賞をもたらしました。
一人旅

一人旅