響く銃声。コンゴの青空。
転がる死体。川と丸木舟。
ゲリラ兵たち。甘い樹液。
鉄拳と強姦。夜の静けさ。
生き抜く少女。お腹の子。
トラック荷台。希望の道。
不思議な作品だった。少年少女への凄惨な暴力と虐待が繰り広げられているのに、なぜかスーッと観れてしまう。主人公の少女が壮絶な体験をした後も、息をし、水と食物を求め、少年と恋をし、明日を目指すからだろうか。背景が、心安らぐアフリカの自然と音楽で彩られているからだろうか。「かわいそう。だから戦争は嫌だ」というコメントでは表しきれない「何か」を、本作品は伝えようとしています。
※以下、ネタバレを含みます。
舞台は、泥沼の内戦が続くコンゴ民主共和国。平和だった村が突然、反武装勢力に襲われた。一味は、12歳の少女コモナと両親が住む家に踏み込み、コモナに銃を渡して「親を撃ち殺せ」と命じる。抵抗する術もなく、泣きながら引き金を引くコモナ。その後、コモナは一味の幼年兵団に組み込まれる。本作品は、この少女の数奇な運命をたどるストーリーだ。
コモナは逃げる。逃げながら戦う。平和という概念も知らぬまま、機関銃を手に日々を生き抜く。そんなコモナの悩みは、両親の幽霊だ。父母に許してもらうため、廃墟と化した実家に戻り、埋葬しようと決意するコモナ。骨を砂に埋めながら口ずむ、鎮魂歌の優しいメロディーが胸に迫る。
全編を通じて伝わってくるのは、コモナの生命力だ。「何て可哀相」という安易な感想を寄せ付けない、力強さに満ちている。ここが、内戦地域の住民を「殺されるばかりの善良で無個性な人々」としてのみ描く他の反戦映画との違いなのかもしれない。
とりわけコモナが、カミソリを仕込んだ木の実を下腹部に忍ばせ、その夜も彼女の体に押し入ってきた強姦兵に地獄の苦痛を与えてトドメを刺したシーンは、強烈だった。コモナがルールなき戦場で殺傷術を体得した瞬間であり、やわな論評を許さないタフな場面だ。
コモナを演じたラシェル・ムワンザさんは、カナダ人のキム・グエン監督がストリートで見つけた少女だったそう。哀愁も誇りも感じられる眼差しに、引き込まれます。
ラストでコモナは、避難民を載せたトラックに拾ってもらう。砂ぼこりが舞う道は、希望への道になるのだろうか。ぜひ、そうあってほしいと祈るような気持ちにさせるエンディングです。深みを感じる作品でした。