OASIS

凶悪のOASISのレビュー・感想・評価

凶悪(2013年製作の映画)
3.0
死刑囚から手紙による告発を受けたジャーナリストが、三件の余罪の首謀者である「先生」と呼ばれる人物について調査する事になるという話。
リリー・フランキーとピエール瀧は「そして父になる」や「アナと雪の女王」の吹き替えを観た後では想像も付かない程の怪演ぶり。
主人公である山田孝之や池脇千鶴等脇を固める役者陣も流石の演技。

リリー・フランキー演じる「先生」が登場するまでの間が長く感じたが、ピエール瀧も加わり二人が揃って「ぶっこみ」始めてからは狂気渦巻く殺戮の世界に引き込まれて行った。
陰湿な雰囲気の中に時折漂わせる黒い笑いなどは、邦画というより韓国映画が得意とするエッセンスが強く入っているし、「殺人の追憶」や「チェイサー」も彷彿とさせる。

ただ、主人公を取り巻く家族関係や、先生に殺人を依頼する電気店の夫婦などの描写がステレオタイプに感じてしまった。
介護を必要とする母を持ちながら苦労する妻と、それに気が向かず取材に没頭する夫という図に珍しさを感じなかった為、主人公サイドのエピソードが余分に思えてしまう。
もちろんジャーナリズムのあり方を問う内容なので彼の立ち位置が重要なのは分かるのだが、彼らサイドに話が行く度に熱量が薄れてしまう印象でした。

殺人者が自分から「救われた」などと口にするのは死者の魂に向けて最も言っては行けない言葉ですが、ピエール瀧は簡単に口に出します。
それを言われたら残された人の憎しみは宙に浮いて行き場を無くしてしまい、結局は誰も救われないまま終わってしまう。
ここらへんはイ・チャンドン監督の「シークレット・サンシャイン」でも描かれている所ですが、この猟奇的な題材でそういったテーマにまで踏み込んで問いを投げかけてくる辺り、十分見ごたえがある内容であるとは思いました。
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