小波norisuke

眠れる美女の小波norisukeのレビュー・感想・評価

眠れる美女(2012年製作の映画)
5.0
科学や医療が発達して、もはや命の始まりも終わりも曖昧であり、社会的に定義が必要となっている。

イタリアで本当にあったエリアーナという女性の延命措置の停止をめぐる論争を軸に描いた三つの物語。エリアーナという女性のケースは、司法の場で長年争われた結果、本人の意思表明があったと認められ、「尊厳死」が認められたのだが、今度は、政治の場で争われることになった。人の命が政治の道具にされている印象が免れない。そして教会もまた、政治に深く関わってしまっている。そのことのやりきれない思いがずしんと響く。

そして三つの物語が紡ぎだしているのは、どれも複雑な夫婦の愛であり、親子の愛であり、男女の愛であり、兄弟の愛であり、そして人間愛だ。

薬物中毒の自殺未遂を繰り返す女が「尊厳なんて香水みたいなもんよ」と鼻で笑う。確かに、尊厳なんて普段の生活で考えないし、ましてやもう身も心も疲れ切って、生きる意味がわからなくなって、もがいている状態では、何の意味もなさない言葉かもしれない。

それでも命は個人の所有物ではなく、神様からの預かり物であって、誰にも、自分で自分の命のはじまりも終わりも決める権利などないと思う。死が避けられないことが明白な状態で、延命措置を拒むことは許されると個人的には思うけれど。(そして、カトリック教徒も含め、多くのキリスト教信者もそう思っていると思う。)どんなに絶望してもそれだけは覚えていたいと、そんなことを考えた。
小波norisuke

小波norisuke