曇天

フッテージの曇天のレビュー・感想・評価

フッテージ(2012年製作の映画)
4.0
ホラー映画が好きなのはホラー描写が本当にいやで怖いと思っているからです。または耐性を持ちたいんです。作り物だから残酷描写が楽しめるんであって勿論現実とは切り離してます。あしからず。

まず冒頭の首吊りカット。顔を隠した家族らしき4人が折れる枝の重みで宙に引き上げられていく。碌に説明もないので最初映画会社のロゴかと思って『sinister』を検索したら「不吉な、縁起の悪い」と出てきた。これがタイトル。イーサン・ホークはよく見慣れてる俳優だからB級以下ではないのかなと少し安心した。ホラー映画の印象はなかったけど歳を重ねてくたびれた感じが合う。

主人公は過去に一冊だけベストセラーを出したノンフィクション作家。未解決の殺人事件を専門にしていて、今回引っ越してきた家が事件の被害者の住居かつ殺害現場だったことを家族に隠している。屋根裏で見つけた8ミリのフッテージ(未編集映像)には過去の未解決事件の犯行がいくつも撮影されていて、場所も年代も殺し方も様々だが決まって被害者は家族。

佳境まではずっと犯行映像を見たり、捜査の手を広げたり、家族内の不和を収めたりで、はっきりとしたホラー的怪異現象は起きてこない。これが本作最大の求心力として働いて、事件の裏の全容のほとんどが分からないまま進むから目が離せなくなる。出てくるのは新しいフィルムと犯人らしき顔と箱の落書き…といった事件の痕跡だけが増えていく。分かるのは、暗示的理由で、主人公の家族も助かりそうにないなぁというゆるぎない確信だけ。

心霊の怖さっていうのは宗教的怖さと非現実感がウリだけど、そうではなく本作は、映像媒体から恐怖を体験するという「現実感」とヤバイもの見たさの「好奇心」と醜悪な殺害方法からくる生理的「嫌悪感」で攻めてくる。ネタはオカルトなんだけどオカルト現象を武器として使ってこない感じ。主人公は映像をデータ化してノートPCで見てたりするから、視聴方法が本作を観てる自分とダブってしまってドキッとする。映画館ではフィルム映像とダブって見えただろうし、はっきりと記録媒体の変化を意識していて使い方も上手い。

主人公は本の執筆にのめり込み過ぎて家族を顧みなくなり、職業作家をやめさせようとする女房を必死に説得する。一度はやめると言っておいて結局やめなかった。信条に矛盾を抱えたまま、何度も家族を裏切って、自分の意地を突き通した彼の当然の末路は、家族に見放された夫のメタファーでもある。家庭崩壊・破滅の映画としても見れる。
犯人の正体(オカルトのネタ)が分かるのは終盤で最早手遅れ、というタイミングがベストなんじゃないかな。どんでん返しではないが犯人の正体もその映像的絶望感もよかったし。中盤でほいほい霊媒師出しちゃったりするのがいけないんじゃないかな~他作品…。最近観た『インシディアス』『永遠のこどもたち』もオチは良かったけど中だるみがひどかったから。
聴き直してもBGMはクソカッコいい。
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