よねっきー

海がきこえるのよねっきーのレビュー・感想・評価

海がきこえる(1993年製作の映画)
4.7
できる男は風呂で寝る。

過剰になりかねないモノローグもあるし、普通じゃない演出も数々あるんだが、何故か奇跡的なバランスで青春と恋愛を描写することに成功している本作。それはそうと登場人物みんな、本心を伝えるときに顔を殴りすぎだろ。昭和か? いいえ、平成初期です。当時のファッションとザラついた質感の画面がカッコいいぜ。

静止画を大胆に挿入したり、シーンが変わる前に次のシーンのショットを一瞬入れたりと、なかなかアヴァンギャルドな編集が目立つ。そしてそれらが結構ハマってるんで驚く。青春の断片的な「印象」として映画が構成されてるというか……画面から季節の匂いがするよね。唸らされるショット運びがいくつもあった。

白眉はやっぱりクライマックスの高知城。あなたのいない場所で、あなたと一緒に見たことのない景色を見て、あなたと一緒に経験した他愛ない記憶が巡っていく。それが恋だ。アニメだからこそ(吹替だからこそ)成立するモンタージュのように思う。ドラマティックな劇伴と、思い出されるしょうもない台詞たちの、コントラストが良い。

サントラの一曲目に収録の「ファースト インプレッション」がめちゃくちゃ良いな……曲名を知ってさらに好きになった。これがいちいち良いタイミングでかかるんだよな。里伽子がホテルで泣きついてきたときに、この愉快なメロディがかかる馬鹿らしさがキュート。

恋人たちは出会い直す。ファースト・インプレッションを、幾度も重ね続ける。一方的に振り回して、一方的に振り回されて、決して2人の関係は健康的じゃないかもしれないけど、その共同経験におれたちは恋をするのだ。そしてその経験は、もしかしたら捏造されたものでも良いのかもしれない、とこの映画は暗示している。うーん、恋は狂気!
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