いの

ミークス・カットオフのいののレビュー・感想・評価

ミークス・カットオフ(2010年製作の映画)
5.0
道案内役のミークが当てになるのかならないのかもわからず、乾いた大地を三家族7名が西へ向かう。ケリー・ライカートが描く西部劇は、それまで監督が描いてきた作品と地続きで、そして西部劇を描きながらも、現代の迷えるわたしたちそのものを描いているんだと痛感する。この一行の旅は、昼間と夜間とが等しく描かれ、夜は焚火を囲みながらも、顔の表情もわからないくらい暗くて(だから野外だけどよくみえるような照明は使用しなかったということだと思うけど)、登場人物たちの心のうちもそう簡単には読み取らせてはくれない。心の不安や葛藤や猜疑心や飢えや渇きをどうにかやり過ごしつつ、慎ましく辛抱強く、歩く。車輪がゆっくりと軋む音を刻みながら、歩く。心の内を破綻させないように、黙々と歩く。そんななかで、気持ちの気配のようなものを観ているこちらも察していく。あらわれた原住民を信用するのかしないのか。殺すのか殺さないのか。敵は相手ではなく、自身の心の内なのかもしれない。決断は自分でくだせと言っているのかもしれない。女性監督が描く、女性が主人公の西部劇。女性の直感を侮るなかれ、と言ってくださっているようでそれもうれしい。そうなんです、女性の直感はだいたいにおいては正しいのです。終わり方もすごくいい。ある部分には決着をつけ、それから先のことは観客に任せてくれている。この物語の先を、わたしはもちろん想像している。


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人類の進化をめぐるドキュメンタリーを観たことがある。殺し合うよりも、与え合った方が、集団が生きのびる可能性が高いと、わたしたちの祖先は学んだそうだ。ミシェルが綻びた靴を針と糸でとじ合わせる場面も好き。完全には信用しているわけじゃないと言いながらも、信用することを第一のカードに置いている姿勢。言葉も文化も信仰も違う他者とどう折り合いをつけていくのか。西部を彷徨う旅はまだ終わっていない。



【再鑑賞】2023年12月下旬

4.5→5.0に変更します

『ファースト・カウ』鑑賞を機に、ケリー・ライカート監督作品をみなおしています。『ウェンディ&ルーシー』も『ミークス・カットオフ』も、そして『ファースト・カウ』もオレゴン州が舞台でした。


文句なしに素晴らしい。冒頭、移動している風景から痺れまくりました。川を右から左、大地を奥から手前に移動、と少しかぶるように奥の丘陵を1疋の馬がなんか奇跡のようにかすかに映ったあとで、彼らがゆっくりと左から右に移動する場面で鳥肌が立ちました(わたしにとって鳥肌が立つ映画は良い映画)。もうそこから、この映画の虜になりました。劇場で再上映されたら観に行きたいです。



メモ
『ファースト・カウ』では、ビーバー捕獲が金になるという話が会話の中で出てきました。今作では、ビーバーは絶滅し(だったかな?)捕獲はもうできない、という話が出てきたような。
いの

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