青山

人魚伝説の青山のレビュー・感想・評価

人魚伝説(1984年製作の映画)
4.0

アワビを採って暮らす新婚の啓介とみぎわ。ある晩、啓介は釣り人の船が爆破されるのを目撃する。死体が上がらず事件になっていなかったことから、2人は現場に向かい、みぎわが海中に潜る。だが、彼女が上がろうとした矢先、銛に貫かれた啓介が沈んでいき...。


妻が伊丹十三『タンポポ』の内容をうろ覚えで「なんか海女さんとアワビが出てくるえっちな映画」とか言っていたので調べてたんですが、最初はこれかと勘違いしちゃって、でもまぁついでだしと思って観たんです(ちなみにタンポポに出てくるのはアワビじゃなくて牡蠣🦪でした)。

夫を殺された美しい海女さんの復讐モノで、ATG提携作品らしいんですが、なんかいかにもそんな感じのギラギラした昭和の熱量がぎゅぎゅっと詰まった作品で、凄まじかったです。

とにかく主演の白都真理さんの体を張った演技が素晴らしかった。
濡れ場シーンがやたら長くてえっちではあるもののシチュエーションが酷いので興奮よりも胸糞悪さを強く感じてしまいますが、そこから血みどろの虐殺になったりするのでスカッとします。
とはいえ、何も悪くないのに巨大な力による陰謀に巻き込まれて全てを失い手を汚すことになってしまった主人公のみぎわが不憫でならず、強さと儚さを兼ねた彼女の姿を全体通してなかなかしんどい気持ちで見守ることになりました。

彼女の夫と幸せな暮らしを奪ったのは原発誘致の計画で、汚いオッサンが〈夢のように「安全だ」ってコール〉する様は3.11を経た今観るとより重みが増して醜悪に映ります。
それだけに、ラストの大虐殺にはどこかスカッとしてしまう部分があり「いいぞもっとやれ!」みたいな気分にもなるのですが、みぎわの「何人殺せば終わるんや」みたいなセリフがそんな気持ちに冷や水を浴びせてきます。
ここにいる下っ端みたいな人間たちを殺したって殺したって巨大な利権のシステムの稼働を止めることは出来ないし、悪の親玉みたいなのがいるとしてそいつを殺してもまた別の親玉にすげ変わるだけ......みたいな虚しさを突きつけられました。
そこにきて、あの幻想的で儚いラストシーンが印象的で、水中撮影の映像が美しいだけにより無力感や虚しさが際立って重たい余韻が残りました。

という感じで勘違いで観たし、正解の『タンポポ』とは似ても似つかない映画でしたが(苦笑)、とても好みな作品でこうした奇縁で観られて良かったです。


引用:ASIAN KUNG-FU GENERATION「N2」
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