ぽん

ヒットマンズ・レクイエムのぽんのレビュー・感想・評価

ヒットマンズ・レクイエム(2008年製作の映画)
3.9
マーティン・マクドナーはかなり好きな映画作家なのですが、なぜかこの作品だけはボンヤリとした印象しかなく。再評価のつもりで再見しました。結果、やっぱり面白かった。10年前の自分はどうかしてた。コリン・ファレルとブレンダン・グリーソンのおとぼけコンビに心躍らなかったなんて。イニシェリンの2人が若い!若いけど賢い兄とおバカな弟みたいなキャラは一緒!って嬉しくなった。

裏社会に生きる男たちの仁義のハナシで、こんな男臭い物語はホントは守備範囲じゃないのだけど、マーティン・マクドナーの描く世界は好き。たぶん文系に刺さる(と思う)。体育会系のドンパチとは違う、ペダンチックな無駄話と詩情にあふれた殺し合い。メンツをかけた男と男の勝負なんて普通だったら最高にイキりたいところなのに、わざと茶化しちゃうのですね。そういうとこ好き。

主演2人の演技も本当に良い。中でもBグリーソンがボスから電話を受けるシーンが白眉です。殺し屋の彼はいつも通り、仕事の依頼だと思っている。世間話をしながらキレやすいボスのご機嫌をとりつつも、話の流れになんとなく不信感と恐れが生じてくる。やがてこの電話は仲間のCファレルを殺す命令のためだったと分かる・・・。次第に表情がくもり苦悩が浮かんでくるグリーソンの一人芝居が見事。これを長回しでじっくり見せるから、見てるこちらも同じ部屋にいてやり取りを聞いているかのように固唾を呑んでしまう。

Cファレルのアホアホキャラも、そう貴方のコレを見たかったのよという期待に応えてくれる安定のアホさ。アホって3回も言っちゃった。なんであんなにカラッポな顔つきが出来るんだろう。今さら眉毛イジリはしたくないけど、やっぱりあの羊毛フェルトみたいな八の字ゲジ眉はどう考えてもズルいし。よく動くよ。腹話術の人形かよ。

そして舞台になっているベルギーのブルージュという街が良いですね。セリフに出てくるとおり「おとぎの国」のよう。そこで映画の撮影が行われていて、「赤い影」(1973)のパスティーシュなんだみたいな話題が出てくるのですが、それはそのまま本作について言ってるのだと思う。「赤い影」の主人公のように、本作の登場人物らも、時が止まったかのように古(いにしえ)の佇まいを残すこの街に閉じ込められ出られなくなってしまう。「in Bruges(ブルージュにて)」というタイトルからは、そんなニュアンスも感じられる。

ついでみたいで申し訳ないが、後半に出てくるレイフ・ファインズもさすがの存在感です。一見、品のある紳士なのにキレ方が尋常じゃなくて、ああいう狂い方は堅気じゃないなって説得力ある。(だいぶ前に仕事で元ヤクザの人と接した時のことを思い出した)

思いつくままにダラダラと感想を書いてしまいましたが、とにかく再見して良かった。Mマクドナーは推せるぞー。これからも推しますぞー。(なんの宣言やら)
ぽん

ぽん