もっちゃん

最愛の大地のもっちゃんのレビュー・感想・評価

最愛の大地(2011年製作の映画)
3.9
アンジェリーナ・ジョリー初監督作品。直感的にだが、この人の作品は嫌いじゃない。最近だと『アンブロークン』で反日だと非難を浴びていたけどそれは表面的にしか物事を見ずに、歴史を顧みない人たちの世迷言である。日本公開が中止になったのは非常に残念。

今作が描くのはボスニア・ヘルツェゴビナ紛争。90年代に発生した大規模な民族紛争である。ボスニア・ヘルツェゴビナでは紛争前にはムスリム、セルビア、クロアチアの民族が仲良く暮らしていたという説明から始まる。
しかし、それは違う。彼らは仲良く暮らしていたわけではなく、小さなわだかまりは確かに存在していた。意識していないだけで。それがユーゴスラビア解体から一気に表面化するのである。

主人公はイスラム系の女性でセルビア系の軍人と恋に落ちる。紛争前は愛を深め合っていた。それが許された。しかし、勃発後は簡単に分断されてしまう。
今まで隣人で普通に接していた人間が突如銃を向けてくる。簡単に引き金を引き、虐殺を行う。以前に見た『ホテル・ルワンダ』でもそうであった。ジェノサイドは遠い海の向こうの話ではなく、私たちの周りで起こり得ることなのである。

『ホテル・ルワンダ』で強烈に印象に起こっている言葉は「私たちの惨状を先進国諸国の人間は今でテレビを見ながら、怖いねと言うだけで済ますだろう」とセリフ。ハッとさせられた。今までの自分が取ってきた態度そのままだったからだ。
その当時の私はルワンダ内戦の現状を知りつつも支援を施さない先進諸国に憤りを感じ、批判した。積極的に介入するべきだったと。

しかし今作で気づかされたのは積極的介入をした場合に支援部隊が戦火に巻き込まれるということである。現在、集団的自衛権の安保法制の論点になっているのもこの点だろう。戦場に来た赤十字に爆弾が投じられるのである。
ボスニア紛争でもルワンダ内戦でも先進国は介入しなかったのではなく、できなかったとも見れる。当時の私は無知でただただ先進国を呪ったが、事はそう単純ではないのかもしれない。今重大な局面を迎えている日本だが、もう一回冷静に分析してみるのもいいかもしれない。

初監督作品ということで所々爪の甘さや荒削りな感じはあるが、アメリカ人のアンジーがボスニア紛争を題材にした作品を作ったというのは大きな意味があると思う。
問題提起型の作品だし、今見るべきだとも思う(スレブレニツァの虐殺から今年で20年である)。合わせて『ホテル・ルワンダ』も見ることを強くお勧めします。