OASIS

ばしゃ馬さんとビッグマウスのOASISのレビュー・感想・評価

3.7
ばしゃ馬のようにシナリオを書いて脚本家を目指す女性馬淵と、ビッグマウスばかり叩いて全くペンを持った事の無い青年天童がシナリオスクールで出会い、友情が芽生えていくという話。

映画やTVドラマの脚本家を目指す人達という、普段覗けない世界を垣間見れる事が出来るし、吉田恵輔監督らしいギャグもキレがあり楽しく観れました。
それと同時に、夢を叶える事が出来た人の裏にはそれに届かなかった人が数えきれない程いるという当たり前だが残酷な現実もリアルに伝わってきました。
その反面、テーマ自体が全ての夢を持つ人に通ずる事だと思うので、脚本家特有の何かを強く感じる事は出来ずに「設定」の枠を出ていないのではとも思いました。
この映画自体が、天童が口辛く批判していた自分の色が出しにくい今の日本映画に対しての吉田監督なりの皮肉かもしれないし、「大衆受けしなきゃダメだよ」と指導する先生や監督達にも薄っぺらさを感じました。
たぶん監督も何万回も言われた事でしょう。

天童が「本気出したら余裕で受かる」と宣う前半部分で若干イラつきつつも、後半部分でついに自分の実力を知ってしまい挫折しそうになるというのは、誰かに喝を入れられたワケでも無く自分自身で気付いてしまう為に強い落差が感じられませんでした。
馬淵にはそういった場面が用意されていたので、天童に対してもキツイお仕置きが欲しかったです。
それに、馬淵は一応才能が無いと自分で言っていたのにそんな彼女に認められたからと言ってそれでいいのか天童よ、とも思ってしまいました。
彼の行動原理が夢の為では無く全て馬淵の為のものに見えました。

主役二人に感情移入できなかった分、最も共感できたのは馬淵の元カレである介護士でした。
彼にも彼なりの夢があって、それに見切りをつけながらもどこかで諦めきれずにいる。それを分かっていながら「こんなこと」でも真剣に取り組んで生きる為の原動力に変えているという彼のキャラクターに心底感情移入してしまい、二人が部屋で夢に語るシーンにもグッときました。
どこかの先生が「諦めたらそこで終了」と言ってましたが、馬淵のように「諦め方がわからない」人にとっては「諦めてもいいんじゃない?」と矛盾めいた事を言ってあげてもいいんじゃないかとも思えました。

とりわけ麻生久美子の演技が素晴らしくて、一見すると近づきにくいけどもちょっとグイグイ行くと「え〜と、あの・・・え?」と若干の入り込む隙が見えて距離が近づくと「な〜に?」と笑顔で迎えてくれるというギャップに悶えっぱなしでした。
いくらメガネで隠してもばっちり化粧をすれば薄っぺらい同級生なんて相手にならないオーラを放ってました。
関ジャニの方は、あれが本当に素の人間性なのかと思えるくらいにリラックスしている様に見えたんですけど、実際もそんなキャラクターなんだろうか?
とにかく、刺さる人には深く突き刺さるメッセージがあるし、吉田監督のファンならば必見だと思います。
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