a

ハイスクール・ミュージカルのaのネタバレレビュー・内容・結末

-

このレビューはネタバレを含みます

・本作は、公開当時ディズニーチャンネル内で最も成功した映画であり、そのプレミア放送では、なんと770万人もの視聴者がいたそう、のちに『チーターガールズ2』(2005)に破られることとなる(830万人)ものの、その後『ハイスクール・ミュージカル2』が公開された時には視聴者は1720万人を超えることとなり、同時に歴代最高評価を叩き出したディズニーチャンネル発映画となったため、結果として本シリーズは同チャンネル内のキラーコンテンツとなったのだ。

・ディズニー・チャンネルについては全く知らない状態だったで軽く調べたのだが、『ディセンダント』シリーズもその一群としてかつて制作されていたラインということで、ケニー・オルテガがディズニー・チャンネルに与えた影響がめちゃくちゃに大きかったことが既に伺える。他にも『オースティン&アリー』『スイーツライフ』『キム・ポッシブル』がめちゃくちゃ面白いという話も予々噂にて聞いているので、これもいつか観てみよう。

・さらにはドナルドダック一族をテーマにした『ダックテイル』という作品もあり、これは『ミッキーのクリスマス・キャロル』で資本家役を演じた資本家のスクルージおじさんが描かれているはずで、このキャラが個人的にとても気になっている(スクルージおじさんの詳細が出典不明だったため、余計に)ので、こちらも観なければならない。

・自分の幼少期には確か「ディズニーXD」と「DLife」というラインをたまに視聴していた記憶が微かにあるのだが、どうやらこれはチャンネルの後期に派生離散したチャンネルの一つで、調べると現在は両方とも20~21年の間に閉局しており、現在はディズニーチャンネル1本のみの運営となっているそう。ディズニープラスにほぼ全てのコンテンツが移管されている。

・余談だが、このようにほぼ全てのサブスクに移行したこと自体は、利便性や手軽さの面からするととても良いのだが、その反面、視聴率や視聴者等のデータは全て会社が独占して持つことになってしまった。ゆえに、それらのデータは全て秘匿化されているので、もう上のような「何回再生記録!」みたいなデータは出してくれなくなった。本当に良くない。

・新年のシーンで降る雪は、実際にはポテトフレークだったらしい(なぜ???)。

・映画に出てくる牛乳パックには牛乳は入っておらず、実際にはレモンライムジュースだったそう(牛乳は冷蔵しないと腐ってしまうから)。

・マイケル・ジャクソンは、ザック・エフロン(トロイ)のあまりの仕事ぶりに感銘して直電し、エフロンはそれを聞いて号泣してしまったそう。ちなみに、現在ザック・エフロンは当時のトロイ役のような程よい細マッチョイケメンから変貌し、超ムキムキのマッチョマンを貫いており、度々ドウェイン・ジョンソン(実写版『ジャングル・クルーズ』のフランク役)等と並んで、マッチョキャラでのポジションでの配役を担っている。調べるほど「ザックエフロンの食事メニューがヤバい」「エフロンの筋トレメニューはこれ」等の記事がたくさん出てきたが、スポーツも筋トレも嫌いなので、到底理解できない。彼にはぜひ、もう一度歌うことの楽しさに目覚めてほしい。

・この映画の実際の撮影にかけた日数は24日間だそう。ディズニーチャンネルの規模感や予算で撮影するにしても、あまりにコンパクトだ(早撮りと言われるスピルバーグ監督でさえ、1作品あたり最低でも4ヶ月はかける)。さらに、サウンドトラックに関しては5日間で録音を完了したそう。このあんまりな制作期間に対して、本作のサントラは累計410万枚を売り上げ、2006年にアメリカ国内で最も売れたアルバムとなった。オルテガ恐るべし!

・上のように非常にコンパクトであるが故に、オマージュや元ネタ等煮詰まったポイントはそこまでないので、以降感想を書きます!(最近の感想がわかりにくかった気がするので、わかりやすく書きます)。

・シャーペイ、17回連続で演じていてもこの熱量でステージに接することができるのは、むしろとんでもなく才覚のある人物なのではないか??

・本作においてシャーペイペアの立ち位置が本当に素晴らしい!のは、まず特筆すべきポイントだと思う。もちろん上に書いたようにキャラ設定やそのギラギラしたビジュアルは見る人の視線を寄せ付けていて、そこには視覚的な面白さがあるのだが、それ以上にシャーペイは、本作中盤にガブリエラを陥れようと画策するバスケ部員の策略からは(勘違いではあれど)一線を引いているし、何よりラストのオーディションの舞台のパフォーマンスも素晴らしく、さらに実力主義的なキャラが一貫されているので、視聴している我々が決して嫌味を感じないキャラクターになるよう、ちゃんと調整されているからなのだと感じる。

・弟くんが歌が上手い以外はずっと抜けていて小ボケを連発するのも、バランスが取れていて本当に好き。最後のガブリエラへの語りかけも絶妙で、後を濁さないキャラというのも好き。

・もちろんその分、中盤でのガブリエラに対する精神攻撃を仕掛けたバスケ部員にはちゃんとフラストレーションが行く。思うのだが、このガブリエラに対する攻撃に比べたら、シャーペイが終盤で起こした日程ずらしの工作など可愛いものではないか(何ならシャーペイは、遅れてきたガブリエラとトロイでさえ「ショービズ」の精神で許してあげるくらいの懐の持ち主なので、はなから相手方を本気で陥れてやろうとは考えていないことすら伺える)。

・これによってガブリエラは泣いて(可哀想)落ち込んで拗らせまくることになるし、それを狙ってしているのだとしたらバスケ部と科学部の連中は到底許されない気がしてしまう。これもオルテガ的には「スポーツで築かれる「チームワーク」と言うのは同調圧力のことなので、その大義のためなら内容が酷くても結束して陥れますよ」というのを暗に示していることなのだと思う(超越した解釈だが、概ね合っていると思う)。

・上に関連して、本作中盤の「クールでいたいならよそ見をするな!」みたいな歌は、根っから個人主義を否定して同調圧力への迎合を要約しているし、その同調圧力にはよそ見せず屈するべきだ!とスポーツ部員や生徒たちがみんなで歌い上げていると言う構図が、まさにディストピア感があり、この対比構造はかなり面白く見ることができた。『ディセンダント』よろしく、やはりオルテガとは思想レベルで、めちゃくちゃにシンパシーを感じる。

・他にも、最初にトロイくんがスポーツを頑張っていて、彼のお父様も立場的に彼につきっきりであることが明かされたとき、「これは正直、これからトロイくんが繰り広げるであろう仲間たちとの友情物語には、全然共感できないかもしれない…」と不安になってしまっていた。というのも、実際にアメリカにある「ハイスクール」では、ひとえに、スポーツをしている男に最も権力が集中するので、それ以外の、スポーツをしていなかったり、グレておらず、筋トレをしていない男などは、基本的にいじめても良い扱いを受ける(嘘のようだが、ごく一部の私立高校を除きどこでもありうる話らしい。なので基本的に海外の学校において筋トレは必須。どんだけ治安が悪いのか)。

・つまり、トロイはそれで言うと「ゴリゴリ」に違いなく、もしこれが、そんな彼が歌も歌えるようになって、絆をミュージカルで深めました!という覇権・権威主義的な物語であったら、自分の思想(反権威主義)と相容れないかもしれずどうしよう、という思いが頭をよぎったのだ。

・しかし、上の通り本作でのトロイというのはあくまで歌を歌うことによってのみ自身の気持ちの解放に目覚めて、その度に文芸と恋愛の重要さを悟り、スポーツからの脱却が頭によぎり、葛藤する。最後の最後には両立できてしまうのだが、このテーマだといくらでもトロイくんをスポーツ主義・全体主義の半グレにすることは可能であった中でも、ちゃんとそれを省察し、歌で諌めるところに、本作の清々しさがある。

・ちなみに、血縁でバスケ部の伝統を背負わせて毎日厳しいトレーニングをさせる父親兼教諭と、視覚的にも性格的にも表現に溢れていて、あからさまに文芸に精通しているような教諭をはっきりと映画内で対峙する存在として描いているのも、本作の二項対立的なサブコンテクストを表現する上では非常に重要なスパイスになっている。鋭い。

・自分がトロイかカブリエラだったら、意図的なミスリードを誘発しようとしてまで特定の思想に迎合させてくるような部活は即刻退部して、二人で毎日放課後歌って暮らすだろう。二人が実力者で本当に良かった。

・そんなこんながあっても、最後はみんなで大団円。ここのパフォーマンスも本当に見事だし、何ならどんな内容であったとしても、全ての映画は最後で大団円で終わって良いんじゃないか、とすら思った。「大団円」って意外とどの映画でもしないので、本作のラストシーンとクレジットの異様な上げ感は、実は映像としての希少性にも基づいたものなのではないかとも感じるところ。

・総評。テレビスコープとは思えないほど卓越して、さらにオルテガのカリスマ的な脚色が光っており、何よりキャラの立たせ方(特にシャーペイ)は最高で、これまたディズニー史における傑作を見たと言う感想です(ここまでの作品がこの時代くらいから乱立しているのもヤバすぎる)。もちろんそこには、オルテガによるハイスクールに対する精緻な視点がありますし、その意味で実は本作は「ミュージカル」を教えてくれるという、メタミュージカル映画なのでは?とも思いました。とにかく、自分とはっきりと共鳴する部分が特に多い作品で、期待していた何倍もお土産を貰って嬉しい、そんな気持ちで満たされております。ここからHSM2以降、ひいては『ディセンダント』シリーズを続けてみていくのが本当に楽しみです(ディセンダント、ヤバすぎた)。
a

a