こたつむり

新しき世界のこたつむりのレビュー・感想・評価

新しき世界(2013年製作の映画)
3.9
♪ 答えなら死んだと風が嘲った
  そんな事 俺は知ってた

劣悪な遺伝子の所為か、それとも環境か。
無数に存在する選択のひとつ。可能性の是非。
人を染めるのは風であり、大地であり、人だ。
男は漢として生きていく。空っ風の中、突き抜ける。

積み重ねてきた時間の重さ、底に溜まる澱。
それを弱さと呼ぶか。
あるいは優しさと呼ぶか。
個人の自由だが、人が人である理由でもある。
そう考えれば、その行為は礎以外の何物でもない。

但し!闇は強制的に周囲を同化させる。
闇の中に居るものは闇となり生贄を作る。
しかし、それは断面を切り取った場合。
闇の中で手を伸ばせば何かに触れる。
それが他者だ。

たとえ、それが刹那の慰めだとしても。
たとえ、それが一時の逃避行動だとしても。
あの日、あの時、あの場所で交わした想いは。
嘘ではない、夢ではない、幻でもない、事実。

ゆえに灯そう。魂の奥の奥の奥で、炎を。
ゆえに奏でよう。地獄の鎮魂歌を、高らかに。

まあ、そんなわけで。
端的に言えば、潜入捜査官とヤクザの物語。
韓国映画らしからぬ“抑えた”筆致は、思わず人を詩人にしてしまうほどに文学的な悦楽に満ちていて、それでいて心に楔を打つ余韻も含んでいました。

だから、確実に傑作。見事なまでに良品。
因果応報を含む着地点は切なくて尊くて。
友情だとか絆だとか、言葉にしてしまえば嘘になってしまうくらいに脆くて儚くて柔らかい“何か”が…とても甘酸っぱかったです。

ただ、あえて難を言うならば。
妊婦さんがハイヒールを履いていたのは違和感。ちょっと現実に引き戻された感があって残念でした。漢のドラマだから野暮な指摘、と言えばそうなのですが…。
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