OASIS

ある過去の行方のOASISのネタバレレビュー・内容・結末

ある過去の行方(2013年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

協議離婚のために4年ぶりに戻った男とその元妻、そして新しく出来た恋人と子供たち。娘の告白をきっかけにある過去が明らかになっていくという話。
「彼女が消えた浜辺」「別離」のアスガー・ファルハディ監督がフランスを舞台にして描く映画。

複雑な事情を抱える登場人物達の相関図を、さほど説明的な台詞では無く徐々に浮かび上がらせていく点等は流石だと思いました。
そして、それぞれが何かしら秘密や嘘を隠しており、それが伝わるか伝わらないかというもどかしさと共に次第にじわじわと炙り出されて行く様子は、淡々としている中でも引き込まれるものがあり見応えがありました。
基本的な骨格はそれぞれのドラマではありますが、小さな伏線が最後にハマり出していく上質なサスペンスとしても楽しめると思います。
音楽による過剰な盛り上げや緊張感を煽る演出が抑え目なのも個人的に良いと思いましたし、目線や仕草からも様々な想いが交錯している様子が伝わってきて心情を読み解いていく楽しさもあると感じました。
全てを伝えて苦しみから解き放たれたいのに、相手を愛する気持ちや想いが壁となって伝わらない。
そんな感覚をドアや車の窓、鏡等の文字通り「壁」を使って遮るという演出で効果的に表現されていたと思います。

話の流れでは、すれ違いが起きる原因や物語の中心となる部分は再婚相手の奥さんが寝たきりになったという話題に尽きますが、そこで語られる悲惨な状況を想像する事しかできずに、その奥さんの姿は映画の最後まで映像として出てきません。
それが、全ての人物が過去に決別をした中で最後に彼が自分の過去と向き合う瞬間に初めてその全身が映される事によって、今まで語られていた状況の重さを知るという衝撃に繋がっていたと思います。
彼女がそうなった原因ははっきりとしているんですが、直接それに関わった人達の中で幾重にもすれ違いが起こっており、必ずしも誰が犯人だとは言えない状況は当事者でも無いはずなのに心が苦しくなりました。

しかし、ラストシーンの素晴らしさがそんな苦しさを救ってくれました。
植物状態となった彼女に語りかける瞬間に映し出させる「手」のみで表現される希望とも絶望ともとれるラストカットは、近年見た中で最も美しいと思った瞬間ですし、鑑賞後の余韻は筆舌に尽くし難いものでした。
ふと思い出して登場人物の心の動きや感情の行き場について考える事ができるという余地を残してくれたのも良かったと思います。
「別離」にあった宗教や信仰に関する深みは無くなっているかもしれませんが、必見の良作なのは間違い無いでしょう。

@シネ・リーブル梅田
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