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キャプテン・フィリップスのhuaのレビュー・感想・評価

キャプテン・フィリップス(2013年製作の映画)
3.9
2009年、ソマリア海域で起きた海賊船による貨物船人質事件。
自ら拘束され、たった1人でソマリアの海賊と命がけの駆け引きをする船長、米海軍特殊部隊の救出作戦とともに、ハラハラドキドキの4日間を描いた、なかなか観ごたえのある作品。

海賊たちが梯子を伝って貨物船に乗り込んできてからの、緊迫感がすごかった。

終始冷静で、海賊に対しても従順ながらも逃げ道を探すフィリップス船長だったが、徐々に限界を迎え心が壊れていく様がとてもリアル。
そして、最後に流す涙がメディカルチェックをする衛生兵のやり取りと相まって、ドキュメンタリーのようだった。

確かにその演技に魅せられるところはあるのだが、フィリップス船長よりも海賊側に気持ちが持っていかれるという不思議な体験ができる作品でもある。

讃えられるはフィリップス船長の勇敢さやトム・ハンクスさんの演技力、SEALDsの有能さ、というだけの作品ではない。
この物語の背景にある、ソマリアという国の実情をなくしては語れない。

海賊行為は悪ではあるが、その背景こそが本作の真のテーマなのではないか。

漁師が海賊をやらなければ生活できない。
なぜ海賊行為を繰り返しているのか。諸外国による魚の乱獲でソマリアの漁業が荒らされ、“仕方なく海賊をやっている”という彼ら側の事情も描かれているのだ。

垣間見える普通の若者の表情が切なくて仕方なかった。
海賊ムセ役のバーカッド・アブディさんが、名優トム・ハンクスさんをも凌駕するほどの存在感であった。
本物の海賊かと見紛うほどの迫真の演技に圧倒された。
拉致された船長も大変だけど、海賊だって正気ではいられない。

4人ともまだまだ若く、自分の手は汚さず、若い子たちを使って大金をせしめようとする悪がいるのだ。

そして船長が彼らに「公海なのだから君たちだけのものではない」と諭したり、「漁師ならそれで生活すればよい」というセリフは、米国側の一方的な主張のように聞こえる。
海賊よりもむしろ殺害をも厭わない米海軍のほうが恐ろしい存在に思えてならなかった。

このソマリアの悪のボスとアメリカという恐ろしい国、その存在こそが、本作のなんだかモヤモヤする根源なのだと悟りに至った。
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