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黒薔薇昇天の3104のレビュー・感想・評価

黒薔薇昇天(1975年製作の映画)
4.2
いわゆる「ブルーフィルム」の制作に情熱を燃やす監督。「芸術作ってまんねん」と息巻く彼は、偶然訳ありの夫人と出会う。盗撮テープを使って彼女に迫り、ついに肉体関係を結ぶが・・。

ひとくちにロマンポルノといっても様々な内容のものがあるが、基本的には「ポルノ」の対象であるところの女性が主人公、女性にフォーカスが当たる作品が多いのだと思う(言い切れるほど数を観ていない)。そこへ来てこの「黒薔薇昇天」。今作では最初から最後まで男性に、というより岸田森にフォーカスが当たり続ける。
和製ドラキュラ、岡本組の常連、自ら「円谷育ち」を自称する特撮俳優・・多くの魅力的な顔を持つ岸田であるが、ここでは普段のクールネスとは打って変わって、ロマンポルノというフィールドでエロティックかつエキセントリックかつ阿呆な主人公を(おそらくノリノリで)怪演している。東京生まれの彼ゆえ不自然で不完全なのだが、主人公・十三がまくし立てる(結果として)インチキ関西弁がどうにも胡散臭く、そして憎めない。高島屋前のロータリー、天王寺動物園、今は亡き心斎橋の陸橋上、同じく今は亡き天満橋の松坂屋屋上の遊園地・・大阪出身者としては、身近ではあるが40年ほど昔の見知った/見知らぬロケ地の風景にも心が躍る。劇中に流れる奥村チヨやDTBWBの楽曲も映画に「哀」と「艶」を見事に与えている。

もちろん?ロマンポルノなので女優は出てきてこれももちろん体を張った演技を見せる。今回のそれはおなじみ谷ナオミと芹明香。前者の豊満さと弱さ、そして後者の華奢さと強さが共によく出ていて共に魅力的だった。

映画制作者とその現場が、昨今よく使われる言葉でいうところの「メタ」な要素も持ちつつも描かれてゆく。大島渚&今村昌平という人物の提示、かつて潰れた映画会社の残党という時代を感じる背景。フィクションであるところのこの映画の後ろに、斜陽化ひさしい当時の日本映画の製作現場というノンフィクションがはっきりと透けて見えるようだ。

ともあれ思いっきり「やり切れ」ば、どんな題材の物語でも上質なファルスになり得るという好例。72分という短時間の極楽の果て、物語の〆かたがとにかくいい。あぁ面白かった。
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