KeithKH

蠢動 -しゅんどう-のKeithKHのレビュー・感想・評価

蠢動 -しゅんどう-(2013年製作の映画)
3.9
ハードルの高い映画です。主に時代劇好きで熱烈なファンがいる一方で、全く評価しない映画ファンも多くいる、毀誉褒貶の多い映画です。決して万人が理屈抜きで楽しめる作品ではありません。
1982年に自主映画16mm時代劇として話題を呼んだ「蠢動」を発表した後、映画界から離れていた三上康雄監督が、30余年の時を経て再び自らの製作・監督・脚本・編集で撮り上げた渾身の時代劇作品。三上監督の意地と長年の執念、自作に対する自負と自尊心、そして時代劇の惨憺たる現状に対する切実な危機感、誰かが警鐘を鳴らさなければならないという強烈な使命感、その雄叫びが沸々と迸るように感じられます。

江戸時代・享保の大飢饉より3年。居合の名手・原田大八郎が剣術師範を務める因幡藩も少しずつ落ち着きを取り戻してきていた。しかし、幕府から遣わされた剣術指南役が藩の内情を密かに探っていた。その動きを察知した城代家老はやがて、藩を守るためにある決断を下すのだったが、これが血に染まる悲劇を齎すこととなる。
悪人が一人もいない故に勧善懲悪ではなく、登場人物が悉く時代の窮屈な摂理の中で、各々が各々の忠を貫き、義に生きる、その互いの軋轢から生じる葛藤、衝突する理と理、その相剋、そして藩を守るため、家を守るため、剣の道を究めるために起きる悲劇、その凄絶な戦いは、中々理解するための難度は高いと思います。
作品を通して重く、暗く、沈んだ鈍色の空気が充溢し、スジも只管個人の感情は抑圧され、時代劇の封建的儒教的価値観に基づいてのみ話が展開するという、時代劇の堂々たる風格を構えた正道を辿る作品です。色彩の淡い中でモノトーンのコントラストの効いた映像も美しく印象的でした。クライマックスとなる雪中の剣劇立ち合いシーンは、雪による動作の制約を受けつつ激しく斬り交わす、緊迫した現実感は画面いっぱいに漲っています。ただ実際にもそうであろうと思わせる立ち合い故に派手さはなく決して見栄えの良いものではありません。斯様に時代劇としてのリアリズムに満たされ、観ていても息苦しいほどの重く澱んだ圧迫感が終始し、観賞後も何か遣る瀬無い虚脱感に覆われる気がします。
尚、登場する女優は唯一さとう珠緒のみで、而も艶事の全くない抑制された淑やかで慎ましい居住いと所作には、意外な印象がしつつ好感が持てました。
KeithKH

KeithKH