九月

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴの九月のレビュー・感想・評価

4.2
京都みなみ会館のジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ2021にて。
あらすじなどほとんど知らない状態で観てたので、誰が吸血鬼なのか、なるほど吸血鬼はそうやって生きていくのか…とだんだん理解が深まっていき、吸血鬼の日常を垣間見るようだった。

活動できるのは夜の間だけで、出かける時は必ず革の手袋をはめ、サングラスを持ち歩くのも忘れずに。
生きるためには食事の代わりに人間の鮮血が必要で、これは一般的なバンパイアの特徴であるが、現代ではその都度人間に襲いかかるようなことはしない。昔のように、結核の死者に紛れさせて川に捨てるなど今はできるわけもなく、後処理も大変。
吸血鬼たちは人間とは違い、永遠の命を持ち、全ての時代を過ごしてきた。

そんな彼らは深い教養を持ち、音楽や文学、科学…などを愛し、それらを生み出してきた故人たちに敬意を払っている。
一方で、限られた時間を徒に過ごし、何世紀が過ぎても本質的には変わらない愚かな人間たちのことは「ゾンビ」と呼び見下している。
でも、生きていくため、鮮血を手に入れるためにそんなゾンビともうまく関わり、人を見極めているのが面白かった。

遠く離れた場所に居ても、ふたりでひとつのようなアダムとイヴ。
もう何世紀も互いのことを知っているのに、一緒に居る時にはほとんどベッタリくっついているふたり。
寄り添い絡み合うような深い愛に、病的な雰囲気を感じながらも、微笑ましいやら、なんだか温かい気持ちになった。

死を恐れることなどないのかと思えば、待っていても死が訪れることがないゆえに自殺を仄めかすような行動があったり、生きていくために必要な人間の鮮血を手に入れるべく愚行を犯すなど、矛盾した行動をしたりしていたところが興味深かった。
また、汚染された血を飲むと命を落とす危険性があるらしい。

アダムの便利屋のような役割を果たしていた人間のイアン。謎多き存在だったけれど、彼のキャラクターが結構好きだった。
イヴの妹エヴァがイアンに噛み付いた時、激昂するかと思ったアダムが必要以上に咎めなかったこと、深読みしてしまう。
また、最後にアダムとイヴが噛みつこうとした人間のカップルのあの目…もしかして?と余計なことを考えてしまった。

終始退廃的な空気が流れていたけれど、この間観たジム・ジャームッシュの『パターソン』同様、自分は日々を無駄に過ごしてしまっているような感覚になった。
文学や芸術などにも触れたくなった。
九月

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