九月

アメリカン・ハッスルの九月のレビュー・感想・評価

アメリカン・ハッスル(2013年製作の映画)
4.2
ポスターのイメージから、クリスチャン・ベイルが演じる人物がボスで、他の四人とチームを組み鮮やかな手口で次々と人を騙し、見ていて痛快な気分にでもなれるのかと想像していたら…全然そんなことはなかった。
どの登場人物にも特別感情移入することはなかったので楽しく観られたし面白かったけれど、どっと疲れた。

冒頭からいきなり、キャラの濃そうな人物が次々と出てくる。禿頭に、ゴージャスな巻き髪に、パンチパーマ…でっぷりと太った男が慎重に髪をセットするところが長々と映し出され、一体何の話が始まるのかと唖然。パンチパーマのちょっと胡散臭そうな男が早口で捲し立て始めたところで一気にボルテージが上がってきたけれど、この三人、全く協力的には見えない。
話の全貌を理解するまでじっくり時間がかかったものの、その分、それぞれの立場や状況が二転三転(四転五転…)していく様子に、彼らの余裕や不安をしっかり感じた。ロバート・デ・ニーロが演じるマフィアのボスの凄みに圧倒され、あのキャラクターが出てきた辺りからは、彼らと同じように焦燥感をたっぷり味わった。

主要な登場人物に誰ひとりとして肩入れできなかったけれど、終始不安な気持ちになりながら見守っていた。自分のことも他人のこともコントロールできて、主導権を握る側にいるつもりだったのがいつの間にか曖昧になっていく…その曖昧さの中で揺れ動くキャラクターたちの描写に引き込まれた。
人を騙したり騙されたりする両方の人たちにも、子どもがいて、親がいて、家族がいて…ということを感じられるところも良かった。

氷上釣りの話のオチを期待していた私は、全ての映画にオチやご丁寧な説明があるわけではない、と突き放されたような気分になり、妙に腑に落ちた。(でも気になる。)

誰にも肩入れできないとは言っても、市長のカーマインはさすがに不憫で、アーヴィンの正妻ロザリンの芯の強さは魅力的に映った。
アーヴィンやシドニーは騙す側として逃げ切ったものの、本心はどこにあるのか考えるとなんとも憐れに思えてしまうことばかりだった。
FBIのリッチーは出世欲と肉欲だけ持て余して、その軽薄さと、気の乗らない時の目の死に具合に辟易とした。(直前までハングオーバーのかっこいい役を見ていたので、打って変わりすぎて何故か落ち込んだ。)

共感はできない登場人物たちの駆け引きに、髪型やファッション、音楽など、今年観た『ハウス・オブ・グッチ』を彷彿とさせることが多くて、この映画も同じくらい楽しんだ。
九月

九月