賽の河原

her/世界でひとつの彼女の賽の河原のレビュー・感想・評価

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
4.0
近未来。欠落を抱えた主人公セオドアがOSのサマンサを購入。言ったらiPhoneのSiriみたいなもんなんだけど、いつしか恋に落ちてしまって...という話。
吹替版で鑑賞したんだけども、人工知能演じる林原めぐみの演技が圧巻。この題材を吹替版にするのにきちんと向き合って頭を使って制作したことが本当に真摯だし誠実だと思う。人工知能と主人公が一線を越える前と後、明らかに違う声の質感と湿度。これは声だけで演じるまさに声優だからこそできる圧倒的な演技だと思います。
私はイヤホンで鑑賞したんだけど、声が完全に耳から聞こえてくるわけで、主人公セオドアとおんなじ状況になっちゃって否が応でも没入してしまいますわな。
でもそこに没入するだけのお話ではなくて、話のなかで何度も人工知能に没入してしまう人間の姿が相対化されるシーンがあってそれがもうすごくスリリング。
例えば、人工知能のOSサマンサとデートするシーン。2人は街中でノリノリなんだけれども、周りから見ると完全に頭おかしく見えるってシーン。没入感のなかに相対化をバランス良く混ぜ込むゆえに、深みというか考える余地が生まれている。恋は盲目というが、人工知能との恋愛に限らず、恋愛には普遍的に当事者ゆえの熱狂と部外者には下らなく映るという(笑)すごく普遍的なお話にもなってる。
古典的で単純なSF的なディストピアっぽい仕上がりにも出来たと思う。
例えば人工知能に恋に落ちるなんて終わってる、リアルに向き合えないダメなやつなんだ。その主人公が現実に向き合えるようになりました。的なね。
でもそんなに人間も技術の進歩も単純じゃないからこそ、こういう重層的な構成になるわけだし、興味深かった。「人工知能に恋する男なんてありえない全然感情移入出来なかった!」みたいな批判には「ちょっと待てよ。そうじゃないだろ、よく見てみようよ」と噛んで含めるように伝えたいですね。恋愛映画としてもSF映画としても良く出来てますよ。
賽の河原

賽の河原