ナガノヤスユ記

her/世界でひとつの彼女のナガノヤスユ記のレビュー・感想・評価

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
4.5
久々に見直したけどやはりイイ。

この一見奇妙な近未来劇に見るべきは、「技術の進歩によって失われた人間性」なんていう定型のディストピアではなく、AIという新しい存在と向き合うことで人間が獲得した感情の拡がり。

AIが見せる自己修復と進化(深化)の驚異的スピードを前にして、我々人間の感情のアップデートの遅々たる様よ。果たしてその鈍重さは今なお保たれるべき人間性の最後の砦なのだろうか。サマンサが見せる非言語的、無限の愛の可能性を目にしてもまだそう言うべきだろうか。

劣化版でない感情、これまでにない感動は、新しい肉体とともに宿る。社会が変わり、生活が変わっても、その中に僕たちの感情は何度でもアップデートされる。その更新の積み重ねがほとんど人生のすべてであるといっても過言ではないと思う。

だからこれは、愛の不可能性の物語であるとともに、AIという限りなく人間に近い、そして遠い他者によって導かれる可能性の世界の映画。たとえ人間の心も、AIと同じようなプログラミングに過ぎないとしても(どうしてそうでないと言い切れようか)、その拡がりや深化は決して言語的分析が追いつくようなものじゃないはずだ。

だから我々は今日を生きていけるのだということをほとんどメインのプロットだけで見せる脚本のスマートさはさすがだし、スカーレット・ヨハンソンの声はもはや剥きだしの凶器、生物兵器の類いなのだ。