ただのすず

サタンタンゴのただのすずのレビュー・感想・評価

サタンタンゴ(1994年製作の映画)
4.3
悪夢のタンゴ。

どんな映画からも貰ったことがない初めての体験。
『ニーチェの馬』が面白かったので。
劇場の大画面で観たかったけれど、7時間もお尻が耐えられると思わなかったので近場で上映していたのを断念(みんなお尻どうしたんだろう)
私は数日に分けて家で鑑賞したので、これを7時間通しで映画館で観た人達とはまた違った感情なのだろうけれど、十分凄かった。

今まで観ていた映画は物語だったんだなと思った。
一時間の枠に収めて不必要な部分をカットするというのはそういうことだよね。
カットしないというのは何処から何処までが重要で切っ掛けなのか判断できないので一時も油断することができない。
目線の上げ下げも瞬きも食い入るように緊張して観続けてぐったりとし、いつの間にか、陰鬱で雨が降り止まずにぬかるんだ道を延々と歩き続ける村人に、私もなっていく。
今にも死にそうなのに酒を飲み続けるドクターをせせら笑っていた時はまるで自分が悪魔になったような気分だし、執拗に踊り続けるタンゴに吐きそうになり、最後は鐘の音と共に暗転し穏やかに絶望した。
そして何より438分全て、どこを切り取っとっても絵画のように美しい。それが一番凄い。
絵画や物語から抜け出たような綺麗な映像の連続なのに内容はどこまでも搾取され貧困で残酷。私も労働者であるということを思い出してぞっとする。
でも同時に、死んだ猫を抱いて眠りにつく時、自分の物語の中だけで生き暗闇に身を委ね死んでゆく時、死だけが平等で、奥底に安堵する気持ちも湧いてくる。
そして、また観たくなる、中毒みたいで気持ち悪い。
どんな映画からも得たことがない感覚。



私も猫を飼ってるけれど、芝居もするので、少女と猫、めちゃ頑張って取っ組み合いをしてて例のシーンはちょっと微笑ましかった。
猫、頑張ればお芝居できるんだね。