OASIS

グランド・ブダペスト・ホテルのOASISのレビュー・感想・評価

3.7
ヨーロッパ東端の架空の国、旧ズブロフカ共和国にあったホテルを舞台に、そこで働く事になった新人のロビーボーイと世界最高のコンシェルジュが常連であるマダムの殺人事件に巻き込まれ、逃げ回る事になるという話。
監督は「ダージリン急行」等のウェス・アンダーソン。

この映画、そしてアンダーソン監督に何を求めて鑑賞するかは人それぞれだが、本格的なミステリーを期待している人はごく僅かだと思われる。
実際ストーリーテリングとしては分かり易すぎて何の面白みも無くミステリーとしても特筆すべき所も無い。
じゃあ何を楽しむかと言えば、豪華キャストの共演や膨大な量の小道具、縦横無尽なカメラワークやクレーン、ズームイン、アウトの多用等とにかく画面内で忙しなく動く物や人々。
おもちゃ箱をひっくり返したようにカラフルな世界で、縦横狭しと動き回る登場人物をめまぐるしくカメラが捉え、動きが止まったかと思えば大量の人や物が物凄い情報量でもって押し寄せてくる。
目にはとても楽しいですが、この膨大過ぎるアイテムの数々は一回観ただけではとても把握できるものでは無くついて行けなくなることしばしば。
それらをじっくり観返すだけでも楽しめるとは思いました。

30年代、60年代、そして現在と3つの時代それぞれに合わせてアスペクト比も変化していきますが、30年代のシーンが多くを占めており、その画面比率が左右を切り取った形なので大画面で観ている側としては豪華キャストの演技をもっと迫力ある画で観たいという衝動に駆られました。
徹底的にこだわったであろう左右対称な構図や絵画的ショットの印象は強く残ったが、時代をもっと交差させつつ見せてくれても良かったと思います。

キャストの中では、ロビーボーイと恋に落ちるアガサ役のシアーシャ・ローナンと怪しい雇われ人のウィレム・デフォーが特に印象に残りました。
時折訪れる唐突なバイオレンスシーン(指切断や生首に驚き!)に必ず絡んでくるデフォーがいちいちツボで、彼の顛末のあっけなさも含めて画面に出てくるだけで笑えるし存在感抜群でした。

本題はミステリーの様にも見えますが、実際はロビーボーイとコンシェルジュ、そしてアガサの三人の距離が徐々に近くなって行く事でホテルの歴史が受け継がれて行く、交友と継承の物語であると思います。
なので二人を結びつけるアガサが重要な役になっているし、シアーシャのその可憐さに改めて魅了されました。近頃良い作品に恵まれていなかっただけに彼女がキーキャラクターとして映画の中で輝いていてとても嬉しくなりました。
その分他のキャストへの注目度が薄くなってしまったのかレア・セドゥがメイド役とは全く気付かなかったし、ビル・マーレイやオーウェン・ウィルソンも一瞬過ぎて記憶には残りにくかったです。

アガサが働くパティスリー「メンドル」のお菓子が包まれたピンクの箱や、真っ赤なエレベーター等とにかくカラフルなショットが鑑賞後も目に焼きつくし、アレクサンドラ・デスプラの音楽も心地良くて見た目にも耳にも楽しい映画でした。
アンダーソン監督のファンなら間違い無く楽しめるし、ステファン・ツヴァイクがどうたらこうたらは全く知らなくても大丈夫だと思います。
知っていたらより理解できるとは思いますが、あくまで裏テーマですからね。

@TOHO梅田
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