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ブルージャスミンのtakのレビュー・感想・評価

ブルージャスミン(2013年製作の映画)
4.0
 セレブな生活を満喫していた主人公ジャスミン。夫がヤバい仕事に手を出していたことで、一転して庶民的生活を送る妹の家に居候することになる。ところが身についた生活スタイルというのはなかなか変えられないもの。歯医者の受付の仕事をするがなかなかうまくいかないし、彼氏を「負け犬」呼ばわりして妹には嫌がられている。なんとかして今の生活からセレブに返り咲いてやる。そんなチャンスをうかがっていたジャスミンにチャンスが訪れるのだが・・・。

 映画冒頭、ジャスミンは自分のことばかりをしゃべり続ける嫌な女だと観客には印象づけられる。そして彼女が自分をよく見せるためにつき続ける嘘の数々。勉強を始めてもいないのにインテリアコディネーターを名乗ったり、文化人類学者を名乗ったり。その姿は時に笑わせてくれるのだが、映画の最後には涙とこみ上げる感情でくしゃくしゃになったケイト・ブランシェットの顔が映し出されて、悲壮感でいっぱいになる。ウディ・アレンが時折撮るシリアスな作品は、何とも言えない苦い余韻を残してくれる。しかし「ブルー・ジャスミン」の前半は男と女の嘘つきゲームのような面白さから一転して、後半はシリアスな作風を思い出させる二本立て。ウディ先生の人間観察あっての脚本は素晴らしいのだけれど、近年のウディ・アレン作品のニヤリとさせる楽しさとは違う。それはケイト・ブランシェットあってのものだと思うのだ。

 ヒステリックに相手に罵声を浴びせ、自分の思惑に沿わないことは我慢がならない。いるんだよ、こういう人。自分もあんな言い方してるのかもしれないな。銀幕のこっち側で、そう感じた人は確実にいるだろう。陳腐な言い方かもしれないが、現実味があるヒロインなのだ。これまでのアレン映画のヒロインたちも確かに素敵だった。夫に浮気されても立ち直るミア・ファローや、独特なファッションで魅了してくれるダイアン・キートン。男を虜にするようなスカーレット・ヨハンソンの瞳も、感情がほとばしるペネロペ・クルスの凄みも素敵だった。しかし、それはスクリーンの向こう側で彼女たちに起こっていることを、僕らは観ていただけではなかっただろうか。「ブルー・ジャスミン」は、感情的なヒロインと生で接しているような圧力を僕らに感じさせる。感情の3D映画とでも言おうか。それはケイト・ブランシェットという女優を得たことで、これまでとは違ったヒロイン像が引き出された結果なのだろう。

 映画館を出るとき、後ろの席にいたおばちゃんグループから「泣けなかったわねぇ」という声が聞こえた。そりゃそうだ。セレブ返り咲きの恋は実りませんでした、という結末で、この映画のヒロインに同情することはできない。僕らはあまりにもジャスミンの嫌な面を知りすぎている。しかしそういう面を持ち合わせているのも人間だし、誰もが持ち合わせている一面なのかもしれない。おばちゃんが泣けないのはそれが理由だったのかもね。

 「アリス」や「ローマでアモーレ」では亡霊のような役柄だったアレック・ボールドウィンが、やっと実体として登場したのはアレン映画ファンとしては楽しい。うさんくさい男が似合うピーター・サースガードもいい仕事。
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