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トイレット部長のshibamikeのネタバレレビュー・内容・結末

トイレット部長(1961年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

観賞後、心が出したての大便程度の温度(=人肌)にホッコリとするハートフルがーえー。全編に渡ってユーモアもほど良く、憎き美男子 池部もなかなかひょうきんが上手い。しかしキャツの涼しげな流し目が憎いよアチキは。

映画冒頭、人類と排泄の歴史がザッと振り返られる。文明が発達する前、人類は川の中で用を足していた(インドとかは今も?)とあり、自分も幼稚園児の頃にプールの中、一点の虚空を見つめ無表情の棒立ちで放尿するという完全犯罪の過去を思い出す。許せ、バラ組のみんな。
川の中で用を足すのは、冬場大変という突っ込みがあったが、確かに。死んじゃう。

ここ数年、サラリーマンの働き方についてみんなワーワー揉めている。
ブラック企業、長時間労働、ワーキングプア、過労死、鬱病発症、名ばかりの働き方改革、暗い話題ばかりである。
そんな平成も終わろうとしているこのご時世であるが、何の因果かこの古くさい映画は「理想の会社ってこんなんじゃね?」と控えめに提示してくれている気がした。AGFAがナンボのもんじゃい!
その会社はなんと「国鉄」なのであるが、今JRで働いている人達は急いで、阿佐ヶ谷に行って、この映画を観るべきです。「あっ、そ。俺らは私鉄勤務だから、関係ねえな。」とへそを曲げずに私鉄勤務の方達も是非。「ハイハイ、私達は航空勤務だから、関係ないわね。」と高飛車なCAの皆様も是非。みんな観よう。

国鉄社内。大の大人達が大勢集まって真剣に議論している。
「便器にまたがって尻を向ける方向はドアに向かってか、はたまた壁に向かってか?」
TOTOやINAXの人達ではなく、国鉄の社員がこういったことを数日間大勢で真剣に悩んでいる。
正直、自分は「こういう会社なら働いていけるかも…」と思った。なぜなら自分は人前で尻を出すことを案外厭わないためである。とは言うものの自分の尻自体はブツブツボーボーに汚いので、尻を出す自分が良くても見せられる方が不愉快になるため、自分もむやみやたらに尻を出さない。
国鉄なのに何で便所?というと、国鉄の中に営繕課というトイレ(だけじゃないらしい)を設計・保全する課があって、この映画の主人公達がまさにその課の所属なのであった。

課のメンバー達もグッド。特に中堅の先輩は最高だった。「課長、名案が浮かびました。」と次から次へと意見を述べるが、もれなく愚案ばかりの愛すべきポンコツ野郎。誰がどう見ても名案ではないのであるが、わざわざ自信たっぷりに"名案"というところ、大好きだぜ。

ポンコツ「課長!」
課長「今、忙しい。後にしてくれ。(その場を去る)」
ポンコツ「名案があるのになぁ…」
は笑った。

そんな和気あいあいとした営繕課であるが、新入社員君だけは不満気。
「(俺は便所の仕事がしたくてこの会社に入ったんじゃない…!)」
そんな言葉にならない不満が日々募る新人君。隣ではポンコツ先輩が「課長、また名案です。トイレットペーパーに企業広告を掲載するというのはどうでしょう!用を足している時というのは暇ですからね、つい読み物が欲しくなるものです。」とほざいている。

そんな新人君の不満を察したトイレット課長 池部は新人君を自宅に招き、腹を割って話をする。

池部「トイレの仕事が嫌なんだろ(笑)?」
新人「いや、あの、その…。」

そしてトイレット課長は自身も新人だった頃、トイレの仕事がとても嫌で上司と揉めたことや、やってみると案外続けられてしまった、という体験談を話す。
自分は普通に泣いた。
自分が社会に出たての頃、自分よりも先に働いている人達は何で当然のように働いているのか、自分は理解できなかった時があったが(ただのバカ)、誰でも良いので先輩から「俺も昔はイヤでイヤでしょうがなかった。」という話が聞けていたらどんだけ励みになったか知らない。

そんな人情味溢れるトイレット課長であるが、奥さんは仕事に理解を示してくれない。
「そんな便所掃除の仕事…」と言って眉をひそめる。
そして夫婦のすれ違いは広がって行き、大喧嘩に。
この関係修復の流れも素晴らしかった。
新人君の結婚式でトイレット課長 池部がスピーチをするのであるが、オスカー・ワイルドの言葉を引用して、式に参列していた妻をハッとさせるのであった。オスカー・ワイルドとか出てくると鼻につきそうなこと必至であるが、本作ではちっとも嫌味っぽくなかった。これまでずっとのほほんとしたストーリーに突然ピリリッとスパイスが効いた印象。肝心の内容は忘れた。でも良いこと言っていたのです。確か、「本当の結婚は愛が終わってから始まる」みたいな感じ。…滲みるぅう。あ俺、独身。

仲直りした妻が池部に言う。
「あなた、家では昇進させたげる。トイレット部長よ!」


上映終了後、劇場を「ごめんなすって!」と飛び出すブツブツボーボーの自分。途端に木枯らしが吹き付けてきたが、トイレット部長のおかげで自分の心は出したての大便程度に湯気を立ててホカホカだったのでちっとも寒くなかった。ただし臭い。
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