shibamike

GOLDFISHのshibamikeのネタバレレビュー・内容・結末

GOLDFISH(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

金魚に魂はあるのか。


パンクロッカーやロケンローラーのリアルヒモ生態はあんな感じなんだらうか。大変興味深かった。
ヒモを飼う女性は、ヒモの保護者というか所有者というか後見人というか支配者というか責任者というか不思議な感じだった。あれも一種の愛の形なのだらうけど。
 ハルはブライアン・ジョーンズのやうでもあり、シド・ヴィシャスのやうでもあり、観ていて痛々しかった。そしてめちゃくちゃオシャレだった。生活力に乏しく、ファッショナブルなルックスというのは金魚感あるのかもね。


「ガンズ」という偏差値低いパンクバンドのメンバー達の中、ギタリストのイチだけは小難しいことを考えるタイプ(その果てが陰謀論に傾倒してるってのはギャグ?)。
 若い頃、パンク人気であっという間にガンズはメジャーデビューを果たす。3rdアルバムのロンドンレコーディングで音楽の世界の広さを知り、本気でギターにのめり込むイチ。
ツインギターの片割れだったハルは遅れを取る形になり、徐々にバンド内で居場所を失う。
 とてつもなくギターの演奏が上達して、本当に悪魔と取引したかのやうなイチがスタジオの中、メンバー達の前で強烈なサウンドを響かせる。ズギャギャギャギャーン!キュイーン!ピロピロピロピロー!!ピーポピーポピー!(凄まじいギターの音)
 メンバー達「すげえじゃん!イチ!」
ハルだけが怒りをあらわに叫ぶ。
 ハル「そんなのガンズの音じゃねぇ!」
誰が見てもハルの負け惜しみだった。
でも実際、演奏が上達するってのは初期のパンクの音から遠ざかっていくってことだらうから難しいところではあるよね。


ハルが自滅していった要因には、イチへのギタースキルの劣等感とかバンド内での自分の居場所の無さとかもあったのだらうけど、イチも他のメンバーもハルのことを一目も二目も置いてたんだらうにな、と思った。メジャーデビュー間もない頃のインタビューシーンで他のメンバーはヘラヘラしてるのにハルだけは言葉を持っていた。ああいうの見て、イチは「(こいつスゲぇ‥‥俺も頑張らなきゃ)」とか刺激を受けてたんじゃないだらうか。
 それなのにハルはバンドで置いてきぼりになっていく。テレフォンボックスで崩れ落ちながら、
 ハル「‥‥置いてかないでくれよ」
と絞り出したのは、ハルだけ成長が止まってしまったためなのか、それともみんなとハルは本当は違う人種だったためなのか。

月日が流れ、ガンズは解散。バンドのみんなも50代のオッサンになり、色んな人生を歩む中、バンド再結成の熱が高まる。
 問題は筋金入りのヒモになっていたハル。アル中、パチンカー、歯抜け、金髪ロン毛、革ジャン、とパッと見で即座に関わっちゃいけない危険人物と善良な市民であれば即決する風貌。
イチ達がハルにバンド再結成の話を持ちかけた際、ハルと同棲?結婚?しているパンク女性が言う。
 パ女「ハルさんは見せ物じゃないんで」
また、後日このパンク女性は再結成の参加を悩むハルにかうも言った。
 パ女「魂を売らなくたって良いんだよ」


バンド解散後のメンバー達はみんな、スタジオミュージシャンで食いつないだり、音楽とはまったく関係のないカタギの仕事をしていたり、軽トラ運転中に助手席の人妻に尺八させて事故起こしたり(これ実話なの?茂、狂ってんじゃん)、ヒモとして生きていたり、といった具合にバンドマンのしょっぱい裏側がやんわり見られる。
 口の悪いイチがハルにだけ「バーカ」と言ったことなかったのは、ライバル視というか他のメンバーとは違った感情(リスペクト的な)があったからに思えた。
しかし、一方でハルの方はイチから気安く「バーカ」と言われないことに距離を感じていた。切ないね。

本作、ガンズとハルのストーリーの他に、父としてのイチと娘さんのストーリーがある。こっちのストーリーは支配・被支配とか自由とか奴隷とかの話で、藤沼伸一のメッセージめいたものを感じた。アナアキイの最新アルバム(パンク修理)でも藤沼伸一の歌詞はその手(支配とか)の歌詞が少なくなかったので、基本的に訴えたいことなのだらう。


"金魚というのは元々フナで、フナを観賞用に改良したもの"という話が本作の肝らしい。
 田舎のヤンキー高校生があっという間にスターになって、というのはなるほどフナから金魚みたいなことなのかも知れない。本当の自分はフナなのか金魚なのか。本当の自分って‥‥何?
と悩んでいると町蔵がやってくる(マジだぜ!)。
 町蔵「自分探し、おしまい。」
一見華やかに見える金魚にも何とも言えない悲しさがあるんやね、とガーエーを観ていて伝わってきた。
何にせよ、「見せ物」じゃないんならバンドマンでも金魚でもないでせう。でもステージに上がるハルを観たい人はいっぱいいた。

ハルのお通夜の後、喪服のままメンバーみんなで喧嘩するシーンがある。
そこでブチ切れたボーカルのアニマルが絶叫した内容が素晴らしかった。
 アニマル「俺達、こんなに皺だらけになって、こんな腹になって、声も全然出ねぇよ!でも今が一番カッコ良いんだ!すげえパフォーマンスを客に見せるんだ!‥‥ナメんじゃねぇっ!!!」
痛いオッサンというか哀れな初老のオッサンに他ならないのだけど、この人はホンマのつっぱりなんやな、と思った。カッコ良かった。



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4年前とかの2019年頃、再結成アナアキイのライブを恵比寿とかで自分は初めて観た。目当てのバンドの対バンが再結成アナアキイだったのでついでのつもりで観た。したら、とある一曲の歌い出しに一瞬で心を奪われた。家に帰って調べたらその歌は「心の銃」という歌だった。歌い出しの歌詞は「俺達ぃっ!」という言葉だった。ついでのつもりがハマった。それからアナアキイのライブにちょくちょく行ったりした。
 茂「俺達ぃっ!」
なんである。
youtubeか何かで生前のマリが茂の歌詞について喋っている動画を観た気がするのだけど記憶がめちゃくちゃあやふや。
 マリ「茂の歌は"俺は"とか"俺が"じゃなくて、"俺達"なんだよ」
みたいなことを確か言っていたやうな気がして、その時に「おぉ!」とか思った筈なのだけど記憶がとにかくあやふや。

「心の銃」の歌詞に出てくる拳銃や戦車が、大人のズルさや汚さのことなんだったら、純粋な子どもが持っているのは心の銃だけ。心の自由だけ。
谷川俊太郎は「―― だれがジョンを ころしたの?
わたし とマークがいいました
わたしのじゆうで
わたしがころした」
マーシーは「見えない自由が欲しくて、見えない銃を撃ちまくる」
(最近、ネットのブルーハーツの記事でこの谷川俊太郎の詩を知って腰抜かした、すげえ!)
 結局、パンク好きのどうしようもない社会不適合の有象無象達諸君はみんな拳銃も戦車も持つことなく年を取れたのだろうか。自分はしっかりずるくなってしまった。
「心の銃を使って戦っていくのさ!」とか還暦越えても汗だくになって本気で歌ってるのだから笑うしかない。それに感動している中年の自分を笑うしかない。


柴三毛 心の一句
「アナアキイ いつまで経っても つっぱりだ」
(季語:アキ→秋)
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