Bellissima

オーバー・ザ・ブルー・スカイのBellissimaのレビュー・感想・評価

4.5
『オーバー・ザ・ブルースカイ』@ユーロスペース

ガッツリやられてしまい反芻してるうちに感想をまとめるまで随分とて時間を必要としてしまった。残留度が濃厚でイメージより気分が体に染み付く作品だ。

アメリカに憧れを抱くミュージシャン ディディエとタトゥー彫師のエリーゼ2人の運命の出逢い、幸福の絶頂期から絶望感をぶつけ合う夫婦の修羅場まで、幼娘の病気をきっかけに情熱が失われ輝きも消え失せる夫婦が抱える空虚を描く・・・

愛を絆にして関係を継続することは可能だろうか、愛で信仰や信条や価値観の違いは超えられるのだろうか。信仰世界を持たないディディエと信仰を大切にするエリーゼ、変化適応しようとする人間と、過去に固執する人間との間に大きな乖離が生まれ相互理解が難しくなり小さな亀裂はクレバスへと変わっていく。どうする事も出来ない「幸福の崩壊」の怒りの矛先はアメリカ政権にまで向けられていく。

作品では「消しさる事が出来ないもの」のメタファーを色々な所に配置する。二人にとっての宝物 愛娘、過去の悲劇や心の中の傷、別れては黒く塗りつぶされるエリーゼの身体にタトゥーで刻み込まれる愛した男の名前。(エリーゼがタトゥーを入れるということは自分の身体に一生消えないものを残し、それにより表意に従って生きることの誓いのようにも感じられる。)そして夫の過去の何げない表情や一言までが「消す事の出来ない」擦れ違いの原因として現在に焙り出されたりもする。こういった消しさる事が出来ないものの中には勿論「愛」も含まれきちんとその「愛」におとしまえを付ける震えのくるラストが用意されている。

短いカットが脈絡なく不連続に変化していく編集でカットの切替でストーリーを追い掛けて下さいって感じのランダムな時間設計で作中のあらゆる点描が集約されていく語り口が素晴らしい。運命に抗えない人間の弱さを臆することなく描ききるその気概が作品に確りとした強度と物語のリアリティを与える。奇を衒うことなく夫婦をじっと見つめ生々しさを捉え続け、込み入った物語も素直に納得させてくれる。苦悩と残酷さ、息苦しく鬼気せまるものがあるが、大小の分岐点でバンド演奏が差し込まれそれが彼らの状況に寄り添った形で素敵な曲をあてていて重圧から解き放ち作品に其処はかとない温もりも感じさせる。そしてそれらをまとめあげ幾多の作品で語られ尽くされた「愛」とは何かを作品に昇華させた。ドラマチックな舞台に呑み込まれる傑作だ。
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