純

ファインディング・ドリーの純のレビュー・感想・評価

ファインディング・ドリー(2016年製作の映画)
4.1
13年経って久しぶりに懐かしいキャラクターに再会したら、家族愛よりも、障害を持つひとの社会での立ち位置、逆境を乗り越える彼らの成長物語という印象が強かった1本。

総合的には、子どもも親も泣けて笑える、ピクサーってすごいなって思う作品で、私も童心にかえって心の底から楽しめた。

でも、この映画のもうひとつのテーマって「障害」なんだなと痛感する。13年前は気づかなかったけど、この話にはハンディキャップを抱えるキャラクターが多く登場する。ニモだって片方のヒレが小さくて上手く泳げないという障害があるし、ドリーは健忘症だもんね。今回日本語字幕で観たから気にならなかったけど、ベビードリーの台詞「私、なんでもすぐに忘れちゃうの」は“I just forget everything soon.”じゃなくて、本来“I suffer from short term memembery (memoryというところでrememberと混同してる) loss.”で、実際はなんでも忘れるわけではなくて直前の短期記憶がすぐ抜けてしまう。だから超冷めたことをいうと、家族のことを覚えていたのは思いの強さが理由じゃなく、家族の記憶が短期記憶じゃなくて長期記憶だったから。そしてベビードリーと家族のシーンがあることで、「障害のある子どもを持つ親」の面でマーリンとチャーリーたちが対照的にうつり、マーリンの抑圧的な教育が悪目立ちする。(もちろん、マーリンも作品を通して成長するんだけど)そして、続編から登場するキャラクターにもハンディキャップがある。ハンクは7本足のタコだし、ディスティニーは極度の近視、ベイリーはエコロケーション技術の喪失を患っている。岩に乗りたがるセイウチ、鳥のベッキーにはこれというハンディキャップを特定できないけど、周りの見下しや排他的な態度が顕著だった。このふたりには、ディズニー作品における、「頭のネジがはずれたキャラクターは言葉を失っている」って法則が適用されてたのかなと思う。

さて、繰り返しになるけど、この話はハンディキャップを背負いながらいかに生きるか、っていうところが1番の根本にある。そういう意味で、彼らへの態度が私はすごく気になった。例えば、ドリーは自分の健忘症を冗談感覚でおちゃらけてるし、周りもお茶目な一面として明るくからかっている。だけど、それはいつだって子どもたちだけだってことに気づいたとき、私は少し怖くなった。マーリンやエイ先生といった大人は、ドリーには何の悪気もなくても、むしろ努力しているのだとしても、彼女を劣等魚扱いしている。ドリーだって悩んでいるのに、マーリンはそのナイーブな悩みを小馬鹿にするだけでなく、最悪な皮肉を言ってしまう。(あの言葉は無慈悲すぎて劇場で泣くかと思った)

当たり前かもしれないけど、誰かのできないことに苛ついたり悲しく思ったりするとき、誰よりも1番その苦しみを味わっているのはその当事者。大人になればなるほど、物事の平均値を知って「これが普通」と定義するものが増え、その心地よさに慣れてしまう。あくまで社会の平均値にすぎないのに、それを下回るひと、「普通」の域からはみ出すひとを邪魔者扱いする。100%苛々するなとは言わないけど、その苛々を八つ当たりでぶつけるのは最悪だ。絶対にすべきじゃない。普段は気にしていなくても、自分がどうしてもできないことが本当に悲しくなって嫌になるときもあるんだと、表面に出さなくてもトラウマや葛藤と闘ってるんだと、この話でドリーは気付かせてくれる。それを理解して接するっていう相手への敬意は忘れないでいたい。敬意というか、もうそれはひとと関わりを持つ上で最低限の礼儀だと思うし。他人のデリケートな過去にずかずかと土足で入るのって、本当に失礼だ。陽気でひとを笑わせてくれるひとほど、ひとに見せられない悲しみや葛藤を背負っていると(私は今まで生きてきて)思うし、そういう意味で私はドリーの強さが愛おしい。

ドリーに関してもうひとつ思ったのは、愛おしさや感動は不公平さや脆さからきているのだなということ。ドリーだからこそ「覚えている」ことに感動できる。忘れん坊という障害があるドリーだから家族を「覚えている」ことがすごいと周りにはうつる。他のひとだったら当たり前だからすごくない。あんなドリーでさえ覚えているんだから、っていう欠陥を前提とした発想だと思う(この正体は家族の記憶が長期記憶だったってことで全部まとめられてしまうんだけど)。そのひとが劣ってるから、他のひとがしても何の価値もないことが特別になるなんてあまりに不公平で差別的で脆いけど、それ故に愛おしい。言葉や行為はどうしたってその人自身には敵わないって、最高に救いがない最上級の存在肯定じゃないかな。

障害を持っているひととの付き合い方は難しい。のけ者にしても特別扱いにしても差別に当たってしまいうるから。じゃあどうすればいいのかっていうとその答えはすぐ出るわけじゃないけど、私はこのレビューで、そんな痛くて悲しいところも隠さず描いてるから響くんだよって、このダークな部分をアニメ化したのが傑作って言われる理由でしょって、多分そんなことが書きたかった。良い映画。
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