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チョコレートドーナツのnetfilmsのレビュー・感想・評価

チョコレートドーナツ(2012年製作の映画)
4.0
 1979年カリフォルニア州ウェスト・ハリウッド、夜の街に繰り出したポール・フラガー(ギャレット・ディラハント)はまた今日もゲイ・ディスコに入るのを躊躇していた。車の中からネオン管を見つめる男の視線はやがて好奇心に負け、ディスコの喧騒の中にゆっくりと足を踏み入れる。France Joli風のメイクで『Come To Me』を歌うルディ・ドナテロ(アラン・カミング)の姿に一瞬で恋に落ちる。バー・カウンターからルディを見つめるポールの視線、その日の楽屋でのゲイたちの会話はイケメンのポールの話で持ち切りだった。その会話を遮るように、話題の的は楽屋のドアを叩く。衝動的な社中の愛撫、警察に銃を突きつけられポールは咄嗟に法律用語を駆使して切り返す。ポールの職業は地方検事局というお堅い仕事だった。多幸感に満ちた朝帰り、低所得者アパートの床に放り投げられたブロンド・ヘアの少女の人形、27号室の部屋をノックしたルディは隣の部屋のマリアンナ・ディレオン(ジェイミー・アン・オールマン)に優しく話しかける。爆音で鳴らされた70's Rock、ルディは安眠妨害よとクレームを告げるが、ドン決まったマリアンナは意に介さない。朝方、警察に麻薬所持の罪でマリアンナはしょっぴかれる。その姿を呆然と眺めているダウン症の子供マルコ・ディレオン(アイザック・レイヴァ)がいた。

 まだLGBTの問題も表面化せず、都市部においても色濃く性差別が残っていた70年代後半。地下の世界に生きるルディはポールに見初められる。かつてストレートとして結婚したポールは、法律の世界に野心を抱く若者で、本気で世界を変えたいと願う野心家で情熱家だった。だが10年もの月日が経ち、彼は自分自身の性への葛藤に目覚める。運命のパートナーに出会った朝帰りの日、ルディは思いがけなくもう1人の運命の人と出会う。生まれつきの知的障害、先天性心疾患が見られ、免疫力の低下したマルコの姿にマイノリティであるルディはどこか放っておけない目で見つめる。『Any Day Now』という原題を持つ物語は重要な意味を持つ『チョコレートドーナツ』に差し替えられ、疑似家族の食卓で、マルコはドーナツをただひたすら凝視し、ポールの掛け声で頬張る。マルコが眠りに就く時の魔法少年の挿話には何度観ても涙腺が緩む。「生みの親よりも育ての親」という言葉にもあるように、ゲイ・カップルはただマルコのために親権者として子供の当たり前の尊厳を守ろうとする。「ここが君の居場所だ」と呟く仮初めの両親の前でマルコが見せた背中。97分という簡潔な結びを迎える物語は中盤以降、それぞれの描写がやや駆け足に過ぎるのが難点だが、自身もバイセクシュアルであるとカミング・アウトしたアラン・カミングの熱を帯びた演技に心底魅了される。ステディカムの不安定な動きの違和感は最期まで拭えないものの、下手くそながら思い入れたっぷりに描かれる物語に、何度も涙腺が緩んだ。
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