OASIS

やさしい本泥棒のOASISのレビュー・感想・評価

やさしい本泥棒(2013年製作の映画)
3.9
ナチス政権下のドイツで、弟を亡くし里親に預けられた読み書きの出来ない少女が本と出会い、厳しい時代を生き抜こうとする話。
輸入Blu-rayで鑑賞。

二人だけでも厳しい生活な上、一人余計な身内が増えた事により更に負担が増した夫婦の元へ、かつての戦時中の仲間の息子が現れて匿う事になる。そして、貧困を極めた生活の末に青年が体調を崩して寝込んでしまい、そんな彼を励ます為に本の朗読をしようとする少女が、得意先の町長の家から本を盗む(正確には借りる)事になるというのが「本泥棒」という意味。

本によって余計な知識を得る人物が国にとっては厄介な者になる時代。
そんな時代に生きる読み書きが出来ない少女が、純粋な知的探究心で様々な物語を知ろうとするも、それは許されない事で。
だが、彼女に心の奥に優しさを隠して強くあたる義母と、それとは反対に本を読み聞かせて優しく見守る義父が、影ながら少女の成長を促していく辺りが微笑ましい。
ジェフリー・ラッシュが安定の優しいおじいさん役で、エミリー・ワトソンは強さの中に密かに娘への愛を隠し持った母役だが、二人共に涙腺を揺さぶる場面がある。
アコーディオンを奏でるシーン、クラスの子達から離れた場所で静かに青年の回復を彼女に告げるシーンがそれだが、後者は特に良い。

ユダヤ人青年と友達の少年、二人の存在も彼女にとって大切な者はあるが、どこか一歩引いた目線で描かれている所がこの映画のポイント。
それは度々挿入される「死を司る者」のナレーションで、静かに迫りくる恐怖を淡々と見つめる様に語っていく。
彼が何故少女に惹かれたのかという所がまた、一人の人間の人生とはどういうものかを深く考えさせる。
生を受けてから最期の瞬間にまで、彼の興味を引く生き方が出来ているかどうかというと、今生きているこの時ですら何の興味も持たれていないに違いない。
常に彼の興味を引き続け、監視される人生を送りたいものである。

時に静かに、時に壮大に盛り上げるジョン・ウィリアムズの音楽が、静かな感動を残す作品でした。
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