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狂った果実のakrutmのレビュー・感想・評価

狂った果実(1981年製作の映画)
4.5
昼はガソリンスタンドで、夜はぼったくりバーでアルバイトしながら、田舎の母親に仕送りをしている素朴なフリーター男性と、金持ちの令嬢でありながらも空虚感を感じている女子大生の不思議な関係とその顛末を描いた、根岸吉太郎監督のにっかつロマンポルノ映画。アリスの同名曲が本作のモチーフになっていて、石原慎太郎の同名小説や石原裕次郎が主演した同作の映画化作品とは関係ない。根岸吉太郎監督は本作を最後に「にっかつロマンポルノ」を卒業し、同年にATGで『遠雷』を製作することになる。

にっかつロマンポルノは、エッチシーンを10分ごとに入れるなどのいくつかの条件を満たせばそれ以外の内容は問われなかったので、若手監督が自由な発想のもとで好き勝手に作品を撮れたということもあって、監督育成の役割を果たしたという皮肉な結果になったわけであるが、そんなにっかつロマンポルノ作品の中でも秀作に値する青春映画である。作品全体から、理屈抜きに感じるような暴力性とか、何事にも熱中できずに心に抱えてしまう空虚さなど、その当時の若者たちの奥底にある心情がありありと伝わってくる。ここにアリスの曲が流れるのだから、たまらない。

主役の男女を演じた本間優二と蜷川有紀の演技が最高。特に、蜷川有紀のクリスタルな透明感のある美しさには見惚れてしまう。こういうアンニュイなしゃべり方も懐かしい。彼女にとっては本作が初主演で、この作品で第3回ヨコハマ映画祭の最優秀新人賞を受賞している。(ちなみに根岸吉太郎監督も本作と『遠雷』で監督賞を受賞している。)永島暎子も可愛いし、こんな役を演じる岡田英次もいい。

また、この当時の価値観が露骨なほどに表現されているのも面白い。主人公の男性は大学に通っていないというだけで、若くして社会の底辺にいる落伍者のような扱いになっているが、今はこういう価値観はかなり薄くなっているかも。お坊っちゃま学生が意外にワルに描かれているのも面白い。
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