けー

マンデラ 自由への長い道のけーのネタバレレビュー・内容・結末

マンデラ 自由への長い道(2013年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

いつかは見なくてはと思いながらなかなか踏み切ることができなかったがようやく視聴に踏み切ることができた。

大好きなイドリス・エルバが出ていたにもかかわらず見るのを躊躇っていたのには理由がある。

一つはデンゼル・ワシントンが「Cry Freedom」で演じたスティーブ・ビコの著作集「I write what I like」を先に読み終わりたかったから。

これはもう英語を読む速度がどんでもなく遅い私だけれども、結構というかかなり精神的に応える内容なので一、二ページ読んでは自分の中でこなれるまでしばらく待たないといけないというようなことが多くて、読む速度は倍増しで遅くなった。可能な限り正確に理解したくて、よく飲み込めなかったところはかなり繰り返して読み直したりもした。

実のところまだ本を最後まで読み終わったわけではないのだけれども、ビコ自身が書いた文章が掲載されているところまでは辿り着くことができたので、そろそろ見てみようと思った。

躊躇っていたもう一つの理由は実はイドリス・エルバにある。

イドリス・エルバは大好きな俳優さんで、彼の俳優スキルと誠意を疑う気持ちは微塵もないのだけれども、それでもネルソン・マンデラを演じるというのはイメージからあまりにもかけ離れている気がして。

実は、この映画を最初にウォッチリストに入れた時はイドリス・エルバが演じていると認識していなかった。後になってimdbか何かでイドリス・エルバが演じていると知って、ひどく驚いたというか、なんというかどんな感じになるか全然イメージがわかなくてちょっと怖かったのだ。

実はシドニー・ポワチエもマンデラ大統領を演じている。どちらを先に見ようか悩んでいて決めかねていたところで「マンデラの名もなき看守 (Goodbye Bafana)」を見た。

そもそもマンデラ大統領のことをもっと知りたいと思ったのは「インビクタス / 負けざる者たち 」を見た時のことだ。

まだBLMのことなど全く知りもしなければ関心もなかった頃のこと。

それでもこんなすごい人がいるんだと、いつか読めればいいなと思って本をアマゾンで注文したものの、あまりの分厚さにドン引いた。

映画化されていると知り、これは先に映画でざっくり内容を知っていた方が攻略しやすそうだなと思ってウォッチリストに入れてそれっきりになっていた感じだったのだけれども。

まず言えるのは、一番最初にこの映画を見ていたら、前知識も何もない私は「なんのこっちゃらかい」とかなりめんくらっていただろうなと。すっ飛ばし方がすごいので、見ながら「これは新書か何かで南アフリカ事情とネルソン・マンデラという人の知識もうちょっと仕入れないと無理だ」と思ったと思う。

もちろん今回見た時も、南アフリカ事情を本当に知らないなぁということを改めて実感することになったのだけれども、それでも先に述べた「Goodbye Bafana」と「Cry Freedom」、「I write what I like」から得た前知識ですっ飛ばされた間にあったことを少しばかりではあるけれども埋めることはできた。

ネルソン・マンデラの2番目の奥さんについては「マンデラの名もなき看守 」で見たレベルでしか知らなかったので、この人が一年以上も独房に勾留されたり、拷問まがいの尋問を受けていたということも知らなくてこれはショックだった。

「知らなかった」というのは正しくないかもしれない。

「マンデラの名もなき看守 」でマンデラの妻であるウィニー・マンデラが逮捕されたということをマンデラに伝えるシーンは何度かあった。

そのことについてはマンデラに精神的揺さぶりをかけるという意図と認識していたが、逮捕されたウィニー・マンデラという女性の身に何があったのかを想像することもしなかった。

自分が勾留されてもマンデラに面接に来るたびに屈辱的な扱いをされ侮蔑的な言葉を投げつけられてもマンデラを見限ることがなかったなんてなんて強い女性なんだろうと感心する程度にしか気を回していなかった。

彼女が置かれた状況を受けた仕打ちを見れば、投獄されていたマンデラの状況もとても守られた平和なものに思えてくるぐらいだ。

1964年にネルソン・マンデラは反逆罪で終身刑を言い渡される。

そこから長い長い獄中生活が始まるのだけれど、何ごとにも関われない辛さや無力感は想像を絶する辛さだったと思う。

ステーブ・ビコがアクティヴィストとして活動し、獄中で亡くなるまでが1968年〜1976年。「I write what I like」を読めば、この人がいかに冷静に状況を分析し、暴力的ではない解決の道を模索し提案していたかがわかる。

この映画を見ていて、ネルソン・マンデラが投獄された後にどれだけ暴力の嵐が吹き荒れていたかを知り、ますますスティーヴ・ビコが暴力ではない解決法に人々を導こうと全力を尽くしていたのかということを痛感し、彼の死を思って改めて胸が痛んだ。

スティーヴ・ビコは本当に理にかなった当たり前のことしか言っていない。ウィットに飛んでいるので文章を読めば結構好きにならずにはいられない感じの人だ。

デンゼル・ワシントンが演じていたからついついデンゼル先生への大好きモードが影響してしまっているであろうことは認めるけれども、理にかなったことしか言ってなかった人が国家治安の名の下に逮捕され拷問され殴り殺されるというのはとてもショッキングで恐ろしいと感じた。

ウィニー・マンデラは幸い命を落とすことはなかったけれども獄中で身体的肉体的拷問に耐え抜き屈せずにいられたのは”怒り”のおかげだろう。憎悪が彼女の生命の火の燃料となり、必ず借りは返すという気持ちが原動力となっていったというのはもう無理のないことで。

引き離されていた結果、ネルソン・マンデラはウィニー・マンデラが最も彼を必要としていた時にそばにいてあげられなかったし、彼女が望むように共に怒りに身を燃やすということもすることはできなかった。

彼の中に怒りがなかったはずはないと思うのだけれども、それをコントロールできた精神力の凄まじさに本当に驚く。  

この映画を見ながら、後半デクラーク大統領の官僚が釈放に対して条件をつけて交渉しようとする場面で、これだけ時間を超絶早送りですっ飛ばした内容である映画にもかかわらず、「どれだけ厚顔無恥でいられるのか」と激しい怒りに駆られて自分でもビックリした。変な話、ウィニーの言い分の方にめちゃくちゃ共感してしまって。これこそが混乱期に安易に過激派に流れてしまいやすい精神状態だよなって、我ながら自分で自分にゾッとした。
それだけにスティーブ・ビコやネルソン・マンデラがその感情に飲まれてしまわなかった精神力の凄さを思い知る。

これまでの白人の仕打ちを「赦す」といったこと、南アフリカの人間として白人の人たちと協力して国づくりをすると言ったことで黒人の人たちの自分に対する見方が真っ二つに別れるだろうこともネルソン・マンデラは当然予測していたことだろうけれども。

親しい人たちにさえ「理解されない」かもしれないことを覚悟の上というかもう理解してもらうことは諦めて、分断されまくっていた南アフリカを一つにしようとした。

ものすごい犠牲の払い方だし、そしてそれが「できる」ことを示したマンデラ大統領の凄さというのはもうなんだか長い獄中生活の結果、”悟り”モードに入ったんだろうかと思いたくなるような神対応ぶりで。


釈放されてからの苦悩は多分シドニー・ポワチエの映画で詳しく描かれてるのかなと思うので、そちらを楽しみにすることにする。

そしてイドリス・エルバはやっぱり凄かった。

メイクのおかげももちろんあるんだろうけれども、外見よりもなんだろう、ネルソン・マンデラという人が内にひめていたエネルギーや深く深く押し殺して生涯表に出すことは自分に許さなかったであろう感情であるとか何かそういうものを感じさせてくれて。 

 雷に打たれるようなカリスマ性と気さくさ。
 1個人であることを諦めて人々のために自由と希望の”象徴”となる運命を静かに受け入れたその精神の凄まじさと傷ましさみたいなものを見事に感じさせてくれました。

思い入れも強かったと思うけれども、ほんとすごい。

結婚式の時にアフリカの民族衣装を纏ったイドリス・エルバがとても自然で美しく見えて、なんだかたまらなかった。
どうして笑顔で平凡で平和な日常を生きていってはいけないのか。
平凡で平和な日常は当たり前にあるものではなくて、”奇跡”のように貴重でかけがえのないものなのだと痛感させられるしめくくりでございました。

イドリス・エルバの笑顔がめっちゃ目に沁みるでよー!!!

そうそうこの映画を見ていて、デンゼル先生がマンデラ大統領と会った時の話をしていて自分よりも奥さんと仲良くなってたーって話していたのを思い出して、マンデラ大統領、デンゼル夫妻の様子がすごく羨ましかったんだろうなぁって思っちゃいました。

デンゼル夫妻が南アフリカに行った時にあって、それから2001年頃、マンデラ大統領がアメリカにきた際にデンゼル家を訪れたんだそうです。

何よりも「家族」とか「家庭」の雰囲気を味わいたかったのかなって勝手に想像したりして。スティーブン・ビコのこととかも話題に登ってそうだよなぁとか。
けー

けー