TAK44マグナム

ゴーン・ガールのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ゴーン・ガール(2014年製作の映画)
4.4
これは怖い。結婚しているから尚更怖い。

突然、失踪したエイミー。日頃から妻を疎ましく思っていたニックはマスコミを筆頭に、周囲の人々に心を見透かされ、妻を殺害したのではないか?と疑われる。
物語は二転三転して、ニックの視点、エイミーの視点からそれぞれ語られ、最後には両者の視点が絡み合う驚愕の結末へと突き進む。

幼い頃から「完璧な自分」を演じ続けてきたエイミーと、そんな完璧な女性と結婚したニックの結婚生活は、職と金を失い、田舎へと越してきた頃から崩壊がはじまります。
夫婦のすれ違いは、やがて恐ろしい事件を引き起こすことになるのです。

途中までは妻殺しを疑われるニックを主人公としたミステリーなのですが、後半に至ってはエイミーの独壇場となり、ほとんどサイコホラーの様相。
日常に潜む狂気を描ききり、全編とおして全く無駄のないスリリングな展開が見事です。

用意周到な計画の実行場面が見処のひとつ。
特に、妊娠に関する○○は、「へええ、なるほど、こうやったんだ」と驚きました。
ヒントの手紙による誘導も驚きだし、顔の傷や眼鏡による「人相をおぼえられないように注意をそらす」テクニックも実際に詐欺師などがよく使う手らしいのですが、良く考えてあります。知能犯を敵にまわすと本当に大変な目に合いますね。

残念な夫を演じたベン・アフレックも巧かったですが、なによりもエイミー役のロザムンド・パイクの怪演が素晴らしいです。「完璧なエイミー」を完璧に演じております。
ニックの会見に見入る場面や、オープニングとエンディングの髪を撫でられながら顔を向ける時の、何とも言えない目の演技など、これこそアメージングでパーフェクト、そしてクレイジー。
これを観ちゃったら、今後はロザムンド・パイクが出てきたら条件反射的に恐怖を感じずにはいられないかもしれません。

しかし、やっぱりマスコミも怖いですねえ。個人の心象を簡単に操作できるし。無責任な人々は扇動されるがままですよ。
これがもし実話だったりしたら、日本でも「奇跡体験アンビリバボー」や「世界仰天ニュース」あたりでやりそうですけど、これまで扱われてきた話の中にも、実は「隠された真相」が存在していたかもしれません・・・なんて想像すると背筋が冷たくなりますねえ(汗)

多くのレビューで、「結婚って恐ろしい」という結論に達しているようですが(苦笑)、確かに大変ですよ。
なにしろ赤の他人だった2人が、ずっと一緒に生活をして、人生を共にしようっていうんだから大変じゃないわけがありません。考え方や意見の相違もあるし、相手の全てが理解できるわけがないし、お互いの自由もあれば束縛もあるでしょう。
これは持論ですが、結婚する前に100ポイントの得点があったとしたら、喧嘩をするたびに減ったり、何かしてもらったら増えたり、些細なことで悲しくなったら減ったり、些細なことで笑いあったら増えたり、そんなことを日々繰り返しながら最初の100ポイントを使い切って、もし残りポイントが無くなったらお別れになるんじゃないかなあ、と思います。
自分を押し殺す妥協も必要だし、勿論、基本的に愛情はもっと必要です。
でも、何よりも重要なのは「相手が自分を必要としていること」なんですよね。それをお互いが感じていないと辛い。
だからエイミーは浮気をするニックを許せなかったし、結果的に自分を必要とせざる負えない状況にニックを追い込み、ニックに(偽りだとしても)自分を愛している、必要だと言わせるんですね。自らの幸せ「だけ」のために。

確かにニックは愚かですけど、それほど悪い男でもない。どこにでもいる平凡な人間といっていいでしょう。
それだけに、もう、ご愁傷様としか言いようがない。
本当に悪意に満ちた物語ですね。だからこそ圧倒的に面白くて魅了されるのですが・・・

ニックがエイミーに問う、「何を考えているんだ?」「どう感じているんだ?」という心の声は、自分ではない誰か、それが例え生涯の伴侶に対してだとしても、一度や二度はおぼえがある問いかけだと思います。
非常にリアルなだけに、みんなが「夫婦とか恋人が一緒に観る映画じゃない」と口を揃えるのは間違いじゃないでしょう。
もしも一緒に観てしまったら?
それが何よりも怖い映画です。


セル・ブルーレイにて