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アマデウスのdm10foreverのレビュー・感想・評価

アマデウス(1984年製作の映画)
4.3
【子供心に感じた『人間の狂気』】

これを始めて観たのは中学1年の音楽の授業だった。
当時のうちの中学の音楽の先生は札響(札幌交響楽団)のOBだったらしく、とにかくクラシック音楽には造詣が深かった(らしい)。

かたや僕自身は音楽には全く興味がなく、音符の読み方に関しては未だによくわからない始末。
音楽の筆記テストの問題でいくつかの写真をみて『この中で吹奏楽はどれですか?』という簡単な問題ですら、「スイソウガク?」となり、結果、水族館の前で演奏している鼓笛隊の写真をみて「スイソウ(水槽)の前で演奏してるからこれだ!」と自信満々に不正解を叩き出し、後に学年でこの問題間違えたのはお前だけだと音楽の先生から半笑いで怒られるというオマケつき(泣)。

そんなこんなで、音楽の授業が超苦手になったのは言うまでもないのですが、何故か楽譜も読めないくせにリコーダーだけは得意だったりして。

で、たまたま先生が不在で自習となった日に、視聴覚室で見せられたのがこの「アマデウス」でした。
出だしからちょっぴり暗めの若干「ホラーテイスト」を感じつつ、血まみれのサリエリというショッキングなオープニングから始まる。
この時点でクラスの数名ドン引き。
だけど、何故か僕は目が離せなかった。

サリエリは神に「生涯の貞操」を誓う代わりに自分に音楽の才能が欲しいと神に懇願し、それが受け入れられたのだと実感し始めたときに、目の前にモーツァルトが現れてしまいます。
彼はとにかく自由奔放で無分別ないけ好かない男ですが、音楽の才能に関しては超天才でした。
宮廷の人間達は奔放に振舞うモーツァルトを毛嫌いしますが、サリエリだけはその才能を見抜きます。

「これぞ神が与え賜う才能だ」と。

そして同時に気が付いてしまったんですね。自分が凡人の側にいて、それはもうどうにもならない現実なんだという事に。
サリエリの心中は単なる「嫉妬」では収まらないですよね。

劇中でも語られますが、サリエリはモーツアルトの才能に嫉妬したんじゃなくて、彼を自分の目の前に遣わした神を憎んだのです。
これまで自分の全てを犠牲にしてあなたに捧げてきたのに、その結果がこれか?と。
神は私に才能を与えるのではなく、私の目の前にいる他人に、しかも「こんな下衆な」男に才能を与え、私にはそれをただ指を咥えて悔しがることだけを強いたのかと。

なんという侮辱か・・・。

そうですよね~。
なんか、わかったんですよね。
中学生ながらにこの「やるせない」「憤懣やるかたない」というドロドロの感情が。
別にこの頃の僕が劣等感バリバリだったわけでもないし、誰かに対して嫉妬で夜も眠れないなんてこともなかった。
だけど、なぜかサリエリの気持ちが痛いほどわかったんです。
自分が死ぬほど欲していて努力しても、結局は神が与えたものにしか手に入らないものがあると。
一種の悟りなのか?

モーツァルトの死因は様々な仮説があるそうですが、その中の一つがこの「サリエリによる毒殺説」だそうです。
劇中ではサリエリが直接毒を飲ませるようなシーンはありませんし、毒物で死んだ云々自体にも触れられていません。
ただ、サリエリは目の前で忌まわしき「神の使い」モーツァルトの最期を看取ります。
そしてモーツアルトが最後に手掛けたレクイエムを「彼の死を心から悼む者。モーツァルトの最大の理解者にして最高の友人サリエリ」の最高傑作として彼の葬儀の場で世に発表するつもりでした。

そう、全ては神への復讐の為に。

しかし、待っていたのはあまりに残酷な結末でした。
モーツァルトの死後、人々の記憶に残ったのは皮肉にもモーツァルトの作品達で、サリエリは生きながらに人々から忘れられる存在となってしまったのです。
こんな事ってあるかい?となりますよね。
一体神様はどこまで不公平なのだと。

でも・・・仕方ないんです。
世界は1%の天才と99%の凡人で構成されていますから。
所詮凡人がいくらあがいたところで、結果的には凡人は凡人のまま死んでいくんです。
サリエリが最期に言った「私は凡庸なる者たちの王だ。汝らの罪を許そう」は、まさに自分自身が凡人であると決定的に悟ってしまったがゆえに出てきた言葉でした。
サリエリは自らの手で、モーツァルトという具現化された神の意志に対して抗い、神の子を殺した・・・はずでしたが、結局はそれすらも神様の手のひらの上の出来事だったんだという事なのかもしれません。

最後の最後、モーツァルトの一言で打ちのめされますよね。

「ごめんなさい。僕は愚かだった。あなたを嫌な人だと誤解していた」

モーツァルトに1mmでも悪意があったなら、ひょっとしたらサリエリは勝てたかもしれない。
だが彼に悪意はなかった。
ただ「神から才能を与えられただけの天才」でしかなかったのです。

・・・もうサリエリに勝ち目なんかないと決定的に突きつけられる結論。

はぁ、神様って必ずどこかで帳尻でもないけど、ある種のバランスをとるもんだと思ってた。
でも、サリエリには苦痛だけを与えたようにも思えた。
だとしたら、なんと不憫なサリエリさん。

こんな感想はありなのかな?
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