小波norisuke

リスボンに誘われての小波norisukeのレビュー・感想・評価

リスボンに誘われて(2012年製作の映画)
4.5
「人生を導くのは偶然だ。残酷さと思いやりと幻惑的な魅力にあふれている」。

邦題の通り、まるでリスボンに吸い寄せられるかのごとく、偶然と衝動に導かれて、初老の教師ライムントはリスボンを訪れる。ライムントの心を捉えた小さな一冊の本。その著者の軌跡をたどる旅は、ライムントを1970年代のレジスタンス運動へと誘う。自身が退屈であるがために妻が去ってしまったと考えているライムントは、時流に抗った若き医師アマデウの思想と孤独、家族との関係、友情と恋の帰結とに思いを馳せながら、情熱的に生きていると実感する数日間を過ごす。

アマデウの墓碑(大きくて驚く)に刻まれた言葉が心に残る。「独裁が真実ならば、革命は義務である」。
無神論の神父と呼ばれたアマデウ。安住と自由は、神の契約なのに。

原作は2段組で500ページ近くもある長編小説。難しい部分もあって、ところどころ読み飛ばしてしまったが、それでもアマデウの人生とライムントの旅とが交錯する物語に魅せられて読んだ。

あの読み応えある大作小説が、111分の美しい映画となって、新たな表情を見せてくれた。急勾配の石畳みの坂道と澄んだ空の色が美しいリスボンの街並み、個性的な俳優たちの味のある演技、過去と現在を行き来するスリリングな展開によって、極上の魅力に満ちあふれた作品となっている。

原作とは異なるラストに心が踊る。単調にも思える毎日も、偶然によって新たな扉が開くかもしれないという希望を感じさせられた。
小波norisuke

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