TAK44マグナム

キカイダー REBOOTのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

キカイダー REBOOT(2014年製作の映画)
3.0
70年代東映ヒーローを再起動!

石ノ森章太郎先生は数多くのヒーローを世に残しましたが、仮面ライダーやゴレンジャーと肩を並べる異色のヒーローがキカイダーであります。
石ノ森ヒーローは異形の存在である者が多数を占めますが、キカイダーは人間ではなくアンドロイド、その名の通り「機械」という異形の者という設定。

プロフェッサーギル率いる悪の秘密組織ダークに協力させられていた光明寺博士が正義のために作り上げたキカイダーは、博士の子供たちを守りながらダークと戦う旅を続ける・・・と言うのがテレビ版の内容でした。
ダークが戦闘用ロボットを他国に売却して利益を得ていたり、キカイダーには良心回路と呼ばれる「善悪を判断する装置」が搭載されているのに不完全なので警察に逮捕されてしまったりと、他の特撮ヒーロー番組とは一線を画したアイデアが盛り込まれ、「ピノキオ」を下敷きにしたというキカイダーのアイデンティティを中心に据えた物語は、70年代当時のお子様向けドラマとしては実に先進的で、確かに特撮にチャチな部分もあるもの大人の鑑賞にも耐える懐の深さが魅力です。

その人気は何故かハワイに飛び火して、現地放映時の視聴率は脅威の80%台、いまでも主演だった伴大介がハワイ入りするとVIP扱いらしいし、リブートされた本作も興収一位を記録したとあります。
テレビ版からこれだけ時がたっても未だに人気が継続されているというのもスゴイですよね。
個人的にも本当に大好きなヒーローで、正直、仮面ライダーやゴレンジャーよりも好みです(唯一、「イナズマンF」はデスパーシティの設定が肩を並べると思います)。
人工知能による問題点が取り沙汰されるようになったいま、更なる再評価がなされてもおかしくないでしょう。

そんなキカイダーを再起動(リブート)した本格的劇場用映画が本作。
「電人ザボーガー」の佐津川愛美をヒロイン役に、脇を「平成ガメラシリーズ」の本田博太郎や「仮面ライダーディケイド」の石橋蓮司、そして何といってもテレビ版で主役だった伴大介と、特撮に縁のあるキャストでかためています。
昔からのファンからすると、どういった風にキカイダーの世界観が再構築され現代にあわせたリファインがおこなわれているのか、そして、いくつかある重要なポイントがちゃんと再現されているのかどうかが非常に気になるところですよね。
で、結論から言うと、「惜しい!」の一言でした。
幕があがるといきなりキカイダー/ジロー(変身前の呼称)とマリ(ビジンダーなのかな?)の格闘シーンで始まります。
ここはロボット同士の戦闘を(スピード感や衝撃音などで)巧く表現しており、単純に格好良いし及第点でしょう。ワクワクさせてくれるオープニングで、つかみはOKです。
何故かフェンスや出入り口が見当たらない(苦笑)高層ビル屋上での戦闘シーンも良好。
ミツコとマサルの危機に助けにはいるジローの(ロボットらしさを備えた)無機質な雄姿、ナノスキンによる3Dディスプレイが変化してキカイダーに変身、ほとんど重機と化した「グレイサイキング」(テレビ版第一話のダークロボット)とのヘヴィな戦い・・・ここら辺りの一連の流れは決して悪くありません。
その後は三人の逃避行がはじまり、多少の中弛みを感じながらもドラマとしては核となる「ジローとミツコたちの交流=ジローのアイデンティティの確立」にちゃんと尺をとってあるので正解でしょう。
ただし、中盤以降は謎な展開が目立ってきます。
明らかに脚本が迷走、完全に破綻してしまうのです。

まず、誰もがツッコミをいれずにはいられないと思うのが、「ダークに連れていかれたミツコとマサルが無事に解放される」という部分。
まあ、確かにダークプロジェクトを推進しているのは日本政府ではあるのですが、銃をもった特殊部隊に襲われたり(しかも銃を撃ってくる。マサルを傷つけることは出来ないはずなのに?)やらロボットのジローやマリの存在を知ってしまった彼らを普通に返すとは思えないのですがね。
「逃走中」に出てくるハンターみたいなのはダサいし、あれなら通行人だと思っていた人々がみんな政府のエージェントだった・・・みたいな演出の方が、敵の底知れない怖さも表現できて良いのでは。
普通に街中で銃撃っていたけど、世間に秘密を隠す気はないのかね?と、かなり萎えました。

プロフェッサーギルがハカイダー(対キカイダー用のサイボーグ)化するのは「キカイダー01」と同様の展開ですが、キカイダーどころかダークプロジェクトまでも破壊しようと暴走するのも性急すぎます。
確かに原作でもハカイダーは狂ってしまいますけれど、いきなりキカイダーの敵がハカイダーひとりみたいな展開になるのも良く分かりませんでしたね。
キカイダーはマリには負けたままだし、これなら途中でマリが乱入して、ハカイダーを倒すために期せずして共闘する・・・みたいなほうが燃えたと思うのですがね。
しかしながら、ハカイダーの声優としての鶴見慎吾は意外とイケてました。マリ役の高橋メアリージェンもアクションを含めて好演。キャスティングに関してはまずまずで、不満は感じられませんでした。

一番厳しい反響が想像されるのが、キカイダー/ジローが到達した「こたえ」についてです。
良心回路があるからこそ、それに判断を縛られて本来の性能がだせない。
不完全だからこそ完全になりたい。
しかし、人間もロボットも「不完全だからこそ完全」なのかもしれない。
テレビ版最終回のジローは良心回路をもったまま、善と悪をちゃんと判断できるようになろうと修行の旅に出ます。
本作では一歩進んだ解釈で、なんと良心回路を自らオフにし、「自分自身の心」のままにハカイダーを「人間を護るために」倒そうとするのです。
ここは賛否両論、はげしく意見が分かれる最重要ポイントだと思いますが、個人的には支持したいアイデアだし、ある意味テレビ版を凌駕しようと知恵をしぼったであろう脚本を評価したいところ。
良心回路=プログラムとするならば、それを越えて心や感情をもったキカイダー/ジローは「人間に最も近いロボット」に進化したわけで、ギルの脳を移植したサイボーグであるハカイダーと、その時点で両雄並び立つ存在になれたのです。
良心回路を切るなんて従来のファンからすれば言語道断というか、かなりの禁じ手で反発をくらうのも当然ですが、それなりに説得力のある展開ではないでしょうか。
だけれども、この肝心のクライマックスの部分が雑すぎ!
なんだか語り口が分かり難いうえに、絵面も単調な殴り合いとスローモーションの嵐で面白味がないので観ていて飽きてしまいます。
ハカイダーもやっていることはダークプロジェクトの破壊ばかりで、キカイダーが人間のためにそこまでして戦う動機も弱い。
例えば、弱者が巻き込まれそうになるとか、それこそミツコやマサルが殺されそうになるなど、キカイダーが死地へ赴く動機づけをもっと強化しないと説得力に欠けるでしょう。そして、とにかくバトルをもっと燃えるものにしてほしかった。
せっかくのクライマックスなのにサッパリ盛り上がらんのですよ、これが。
ハカイダーの圧倒的な強さは良いんです。何といったって伝説級の悪のヒーロー、海外でいえばダースベイダーやターミネーターみたいなものですから。
でもいくらなんでも強すぎです(苦笑)。逆に言えばキカイダーが弱すぎる。弱く見えてしまう。
中盤でもマリに完敗するし、強そうだったのは最初だけという、主役ヒーローにあるまじき弱さが、どうにも哀しい!
覚醒後も、前述したとおり、やっとハカイダーと同等になっただけ・・・というか、それでもやられまくるし。
ストレスがたまっちゃいますよ、マジで!
最後の、デンジエンドは文字が出るところではあっ!と思えたのも束の間、テレビ版のデンジエンドの爽快感なんて皆無な自爆技で本当に残念でした・・・。
ガラスが割れなきゃデンジエンドじゃないんだよ(苦笑)!
付け加えるなら、やっぱりキカイダーにはサイドマシーンが必要です!
ハカイダーには、ちゃんと専用バイクの「白いカラス」が用意されているのに、何故に主役の移動が徒歩とかバスなんだ(苦笑)。

キカイダー/ジローのデザインや立ち振る舞い、(多少単調ながらも)見どころの多いアクション、「ダークに生まれし者はダークへかえれ」などの名台詞の再現、ジローとミツコの淡い恋模様などなど、もちろん良かった点も多々あるのですが、いかんせんこれではリブートされても困るといった出来映えでした。
2年もかけた脚本がこれでは、一体いつになったらアメコミヒーロー映画のレベルに追いつけるのか・・・。
尺もこの内容で1時間50分は長すぎるので、コンパクトにして、もっと磨きをかけて再度チャレンジしてほしい所存です。
キカイダーが本作で終わってしまっては、本当に勿体ない!


huluにて