エクストリームマン

ゼロの未来のエクストリームマンのレビュー・感想・評価

ゼロの未来(2013年製作の映画)
4.2
無意味だと吐き捨てながらもその仕事を辞めることはなく、辛いと叫びながらも何故辛いかを考えようとはしない。そんな、自分が決めつけたたった1つの方法での救いだけを求める男が巡礼されて徐々に変化していく話。一見受け容れ難く偏屈で異常に見える主人公も、次第に彼が抱える普遍的な苦痛の正体が明らかになっていく。

現代版の『未来世紀ブラジル』といった感じか。監督本人も比べられるのはわかっていたと言っていたし、30年以上経った今、改めて語り直したかったのだろう。ただ、大雑把に見た時確かに『未来世紀ブラジル』と似ているが、内実は結構異なっているのではないかと思う。本作には市民を「わざわざ」抑圧するようなものは何も出て来ず、それ故タトルが出現する余地もない。そして、寧ろそこに、つまり人々の無関心さに主人公は畏れを抱き救いを求めている。『未来世紀ブラジル』の世界は、徹底的に官僚的な組織が社会をコントロールしていたが、裏を返せばそういったものがなければ人々を統制することができなかったということだ。しかし本作の世界では状況は更に進展していて、最早そういった装置すら必要とされず、人々は内面化された規則に疑問をもつこともなく安穏と個人の殻に篭っていられるようになった。監視カメラは静かに見つめるだけで、何もしない。そういった状況も、遥か高見に存在する何者かによって仕組まれているのだと劇中で繰り返し主張されるが、しかし実際は全くそんなことがないというのが唯一の答えであり、主人公が苦しみ続ける理由の根源でもある。そして、神も世界を裏から支配する巨大企業の陰謀も等価でありかつ存在しないという空虚さを癒せるのは、バーチャルでチープな浜辺での戯れだけなのだ。

ワンサイズフィットせず。