このレビューはネタバレを含みます
Such a poser.
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』以来のMCU映画。今年からドラマは矢継ぎ早に公開されていたものの、映画としては本当に久しぶりで。
やはりというべきか、フローレンス・ピュー演じるエレーナがとにかく良くて、個人的にはそこに尽きるというか。デヴィッド・ハーバーのアレクセイ/レッドガーディアンも良いけど、活躍が少なく、ちょっとした場面での爆発力も弱くて、なんとも勿体ない。あと、メイン4人の中だとレイチェル・ワイズのメリーナが一番割を食っている。明らかに尺の都合でドラマが削られているのはわかるのだけど、だとしてももう少しフォローを入れないと、ほとんどの行動（しなかった行動も含めて）の理由がよくわからないサイコな人って感じだ。いや、汲めということなのかもしれないが、それにしてもね。なにより、『女王陛下のお気に入り』で見せたようなレイチェル・ワイズのかっこよさがアクションとして見られなかったのは残念。結局撃たれることのなかったスナイパーライフルが泣いている…
MCUに限らず、フランチャイズを前後で拡張していくと起こる「あの時は何してたの？」問題が今作が作られたことで増えている気がかなりするものの、どうもその辺の整合性は、マーベルの「クリエイターがやりたいことを優先する」って方針からそこまで顧みられなくなっている雰囲気。キャラクターとエモーション主義というか。
まぁ、キャラクター尊重するっていうなら、今作のタスクマスターの扱いはデザイン含めてあまりにも…シークレットだったっぽいオルガ・キュリレンコもアバンにキャストとして出てくるから、名のある女優出ている（事前情報なし）→タスクマスターの中身が（作中で）不明→ドレイコフ（レイ・ウィンストン）の娘が云々→タスクマスター＝オルガ・キュリレンコは即わかるものの、結局オルガ・キュリレンコがタスクマスターである意味が無さすぎて。だれでもいいじゃんっていう（まさかオルガ・キュリレンコが『007 慰めの報酬』のカミーユだから？）。あともう、タスクマスターのデザインが”リアル”に寄せたのか知らないけど、失敗以外の何者でもないというか。「追跡する相手に恐怖心を与えるため（バットマン的だ）」とか適当な理由付けていいから、ドクロの仮面にしてくれよー。ナターシャ対タスクマスターのアクションにテーマが出ないのも、タスクマスターである意味をより薄くしていて気になった。相手の挙動を完璧にミラーリングしてくる能力＆数々の組織で戦闘教官として働いてきたキャラクターなんて、ナターシャと相対するキャラクターとしていかようにも料理できるのに、〜っぽい技をなんとなく出してくるだけのやつになってて哀しかったな。トニー・マスターズはもう出てこないのだろうか。
宣伝文句にあるような「スパイ映画」感（007とかMIとか意識なのか？）とか「アクション」映画感はそこまでではなくて、だったらアバンのあの雰囲気のままジョン・ル・カレ的世界を展開してもファンはついてきたのでは（シチュエーション的には『ジ・アメリカンズ』だけど）。ブダペストの室内格闘はボーンシリーズ感あったけど及ばないし、バイクチェイスはMIシリーズだけどやっぱり及ばないし、レッドルームの中のアクションも、うーん。求め過ぎなのだろうか。同じMCUでも『キャプテン・マーベル』と比べればそりゃアクションは良いけど、ブラック・ウィドウの単独映画ならもっとアクションが尖ってても良かったような。あるいは、アクションが語りの一部になっていれば印象も違ったのかもしれない。
悪役ドレイコフ（レイ・ウィンストン）も何がしたいのかわからんかったな。キャラクターの造形から、製作者たちが何を言いたいのかはわかるけど。でも、だとしたらガス一発で洗脳解けるって設定は、ドレイコフというキャラクターを通して語りたいことと決定的に矛盾しているような。ガスで化学的な洗脳から解放されたとしても、心はドレイコフに囚われたままで反逆できない、みたいにならないとおかしい。メリーナだけがそういう状態で、他のウィドウ達は、タスクマスター含めて全員単に化学的な洗脳受けていたから従順だったってことなのか？アベンジャーズにバレてなくて、でも逃れられない”強い”敵を出さねばならないというフランチャイズの要請に応えねばならない苦労はわかるけど、心を支配するタイプの敵を選ぶのだとしたら、もう少しやりようがあったのではないかと思ってしまう。
良いところもあるし、フランチャイズのファンに向けたサービスを詰め込んだ映画ではあるのだろうけど、単独作としてもっとできたことありそうだという惜しさに引っかかってしまう。MCUだと『アントマン＆ワスプ』『キャプテン・マーベル』のカテゴリーかな…
