次郎

6才のボクが、大人になるまで。の次郎のレビュー・感想・評価

4.7
6歳の少年が18歳になるまでを実際に俳優が6歳から18歳になるまで撮影したという「北の国から」方式を1作の映画でやってしまうという、誰もが思い付きそうで誰も成し遂げなかった作品を完成させるリンクレイター監督ほんと凄い。ビフォア三部作でも描いていた、映画における時間を主題とした際に浮かび上がる詩情を一層鮮明に浮かび上がらせている。

それにしても真に心に残る映画というのはその映画の質以上にどのようなタイミングで出会うかが非常に重要な訳なんだけど、私事ながら今年春に子供が産まれまして、ええ。悪戦苦闘しながらも我が子にミルクをあげながら少しずつ観ていたのだけど、赤子って12年経ってもまだ12歳なのかと考えながら過ぎる歳月を見守るというのは大変感慨深い経験になりました。

父親というのは育児のスタートアップに参画しないとオキシトシンが生成されず以後家庭での居場所を失っていく…というのはよくある話なんだけど、それとは別に文化として、社会として全般的に「強い父親」という像は崩壊している訳で。そんな状況に振り回されながらも成長していく子供と、最初は完全に失格でありながらも、少しずつ父親としてあるべき姿を見い出していくイーサン・ホークの姿は感動的であった。

「親がなくとも、子が育つ。ウソです。親があっても、子が育つんだ。」というのは坂口安吾の太宰に対する名追悼文だけど、その安吾も50過ぎて子供が生まれてからはデレデレなエッセイを残している訳で。子供はなくとも人は大人になれるし、子供があっても、親は育つ。人生は驚く程に多くものとすれ違っていくけど、時に並走してくれるものと出会う時もある。本作はそういう意味で自分と出会うべき時に出会い、その後も寄り添ってくれるものだと確信できる、素晴らしい体験だった。
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