月うさぎ

パディントンの月うさぎのレビュー・感想・評価

パディントン(2014年製作の映画)
2.8
大人が作るとこうなりますって見本。
現実から離れられないのね。子どもの頃の心って忘れてしまうものなのかしら?
パディントンは子どもにとってはクマじゃない。ペットでもない。お友達だ。
しかしこの映画は「全世代に観てもらおう」という欲をかいて、夢を台無しにしちゃってる。童話の、ファンタジーのなんたるかをわかってない。もっとも最近の映画はみんなそうだけど…。

スリリングな展開で刺激たっぷり、映像効果バッチリ、でも理屈っぽくておおらかさがない。
第一なんなんだろう、この暗〜い始まり方は…?
クマを追い出すだの住む世界が違うだの、絶望して落ち込む姿の気の毒なパディントン。
こんなの子どもが喜ぶとでも?

原作を愛していたかつて子どもだった私の記憶の中のパディントンとあまりに違うので原作を読み直してしまったわ。
そうよね、やっぱそうよね。
パディントンは可愛い赤ちゃんのようなもの。
頭がいいのか悪いのか、アンバランスでさっぱりわからない。
好奇心の塊でヤンチャで世間知らずで人懐こくておしゃべりでマイペース。
やる事色々迷惑なんだけどなぜか結果オーライで、最後にはみんながほっとして笑顔になれる。
ジュディもジョナサンも弟ができたみたいに喜んでいるし、ミセス・ブラウンもバードさんも溺愛に近い可愛がり方。

悪人は出てこない。悲しいことは起きない。大事件がなくたって日常のあれこれが、子どもにとっては冒険なんですよ。
子供の頃、近所の公園や路地裏が探検の舞台だったように、ちょっとしたイベントで十分ワクワクできるものなんです。
なのに大人ったら、ハラハラドキドキは犯罪行為にあると勘違いしている。
危険なシーンがないとウケないと決めつけている。MIのパロディ?
原作に不満だったらパディントンを映画にしなけりゃいいのに…。

【この映画の素敵なところ】
ブラウン一家のお家がファンタスティック❣️
アンティークショップも何もかも魅惑的。
この映画の美術スタッフは一級ですね!
お部屋は非現実的でまさにファンタジーでした。

ミセス・ブラウンのユニークな事。
絵本の挿絵画家で変人という設定なのですが、パディントンに並々ならぬ好奇心と情愛を発揮する可愛い女性。
サリー・ホーキンスは同監督の「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」でも印象的でした。いい女優さんです。

パディントンの目の表情が変化に富んでいてすごいなと思いました。

何故か街にいるカリプソバンドが楽しい

【この映画のよくない点】
現実にクマが家に来たらどうする?という目線で常に描かれている。
原作の面白い点は、喋るクマを家に連れて帰ってそれが普通みたいなところなんですよ。

大事件を起こしたくて悪人を無理矢理投入している。その悪役が色々なものの寄せ集めコピーみたいでダサい。無駄に美女(ニコール・キッドマン)なのも違和感。

移民問題をクローズアップしてポリコレくさい。グルーバーさんまで勝手に移民設定。

子どもに絶望を教える必要はない。少なくとも児童小説の中では。
どんなことがあっても、自分を大切に思い受け入れてくれる揺るがない大人や家族がいる、という安心感を与えてくれる事。それこそが健全で思いやりのある懐の広い大人になる大切な心の基盤となる。違いを認めて差別を無くそう、なんて説教は実はなんの意味もないんだよ。

何故、パディントンが屋根裏部屋に?
何故親子の確執を取り込む必要がある?
家庭内の不協和音をパディントンが解消してみせるってハッピーエンドを仕込むためなのもみえみえ。
初めから愛のある家庭に迎え入れられた幸せな小さな子グマであって何故いけない?

【原作と異なる点】
そもそも探検家なんていない。ペルーの森が地震で壊滅もしていない。
英国文化を教えた者がいるとかロンドンへ行く理由があったとか背景を説明する必要が童話にあるだろうか?

いいか悪いかは別として、家族のキャラが濃すぎる😅

ブラウンさんがはじめは全然いい人に見えない。彼が豹変するのは何とギャグ設定だった。
ジュディが思春期のマセガキって変。
(本当は笑顔溢れる素直で可愛い幼い女の子です。ジョナサンは弟じゃなくてお兄さん)
この変更ってお子様映画にしたくない商魂みえみえです。
バードさんは家政婦で、親戚じゃないです。これぞイギリスの中流家庭って部分なのに、なんで変えるんでしょうね?
家政婦が嫌なら現代の話にすれば良いのです。

皆さんパディントンにちょっと驚くけれど大騒ぎはしないのです。
パディントンが色々しでかしても、おおらかすぎるだろ!ってくらい平気なところが大人になった今読んでみると確かに「あり得ない!」のだけれど。
でも子どもの頃はこんな「迷惑な」パディントンに寄り添っていた。子どもって自分より「ちょっと子ども」な生き物が大好きなんですよ。パディントンは読み書きはできますし、丁寧な言葉遣いのできる「紳士」ではありますが(英国ではこれが一番大事なのかも)中身は赤ちゃんなのです。
話すことで、パディントンは「動物」でもないのです。
物語の中において話す動物は、擬人的存在であり動物とは認識されません。
童話においてはそれが暗黙の了解なのです。それをこの映画ではクマ、クマって動物扱いなんですよ。
今観たい映画なんですが「哀れなるものたち」はまさにパディントンだと私は思っているんですよね。


ピーター・ラビットやポケモンやダンボも実写化されましたが、これって流行りなんですか?

願わくばどうかスヌーピーが実写になりませんように…
月うさぎ

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