小波norisuke

HUNGER ハンガーの小波norisukeのレビュー・感想・評価

HUNGER ハンガー(2008年製作の映画)
4.8
この映画を観るまで、思想・信条の自由は基本的人権として保障されるべき権利であり、思想・信条を理由に拘束させられる政治犯などという犯罪はあってはならないと信じてきた。しかし、本作で囚人たちが要求していることは、政治犯としての身分であり、他の罪の犯罪者と同じ囚人服を着させられることを断固として拒んでいる。

紛争によって抑圧した者たちが、抑圧に抵抗した者たちを捕らえたのだから、囚人たちはいわば戦争捕虜と同じであって、他の犯罪者と同様に扱われることを拒み、政治犯であると主張したいのかと、刮目。

アイルランド紛争もIRAという言葉も、ニュースで耳にしていたが、ほとんど知識がない。無知を反省させられた。

辛い場面がこれでもかこれでもかと続く。暴力シーンも辛いが、「茶色の壁」がかなりキツかった。

しかし、この監督の台詞もなく、淡々と状況を映し出す描写が好きだ。拳に痛々しい傷を負った警官が、雪の舞い散る戸外で煙草をくゆらせるシーン。刑務所の長い廊下を、職員が水を流しながらモップで掃除するシーン。抗う者と、抑圧する者の攻防がたまらなくやるせなく思える。

そして、マイケル・ファスベンダー。彼のやせこけた肉体から発せられた強い訴えに鳥肌が立った。

徹底的に打ちのめされる衝撃作。あまりにも重くて、とても好きだとは言えないけれど(今まで日本未公開だったのも納得)、私には「それでも夜は明ける」以上に、観れてよかったと思った作品。(マイケル・ファスベンダーは、「それでも夜は明ける」と続けて観たので気づいたが、英語が全然違っていた。)

かつて多くの政治犯が獄中死した(させた)歴史を負う国で生きる身には、対岸の火事として済まされぬものを感じた。
小波norisuke

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