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ジャンヌ・ダルク裁判のpikaのレビュー・感想・評価

ジャンヌ・ダルク裁判(1962年製作の映画)
4.0
ジャンヌダルクの裁判を描いた映画で最も有名なのはカール・ドライヤーの「裁かるるジャンヌ」だろう。それとまさに言葉通り対極にあるのが今作だと思う。
感情を引き立たせジャンヌの表情を一筋足りとも逃さぬようクローズアップで紡ぐドライヤーと、感情表現を一切に排してただただ史実を映像化し、過去を現在に蘇らせることに徹底したブレッソン。
それぞれの魅力があるだろうけど、個人的には今作の方が好みだ。しかしそれは先に「裁かるるジャンヌ」を見たから、裁判の大筋を知った上だからこそ根こそぎ削ぎ落とされたシネマトグラフに感嘆したのかもしれない。
と思いつつ今作はフランス人によるフランスの絶対的な乙女の物語であるので、ジャンヌを知らぬ観客は最初から門外漢なのかもしれない。

ブレッソンのシネマトグラフを見ると心地良い気分になり多幸感に満ち溢れるのだけれども、それは作り手の感情や押し付けのない自由さからなのか全く持って疲労度がなく、それでいて削ぎ落とされた中にある感情の爆発がとても詩的で胸を打つ叙情に心底酔える。

キリスト教カトリックのアレな特徴のひとつとして教会崇拝があり、信仰は家の中でも一人でも行うことができるものであるのに、教会を敬い通い司教を尊敬しろと言う強制をジャンヌの問答から炙り出されている印象を受ける。
偏った教会側が信じられないものは全て黒だと言わんばかりの理不尽な裁判の中で、必死に信仰に身を捧げ主に全てを委ねるジャンヌの姿はイエスを彷彿とさせる、それは史実であるのかブレッソンの意図なのかはわかりかねるが、インタビューでこの歴史上最も重要な人物の一人である乙女を敢えて現代の人々に理解を深めさせるために意図した演出を盛り込んでいると語ることから、他者の誘惑に負けず自身の信仰心を貫く姿勢を表現させるよう輝かせたのかもしれない。

撮影監督が三度泣きを訴えたインタビューが面白かった。
素晴らしいロケ地を見つけたのに自由に撮らせてもらえないどころか全くその建物の美しさを利用させてもらえず、ジャンヌそのものに負けず劣らずの美しく知的な乙女を見つけモデルに配したにも関わらずカメラに顔を向けさせることなく延々うつ向かせ、ブレッソンを「燻製のニシンだ」と評し「美しい骨は残ってるのに食べる身がほとんどない」と「今作は失敗作だ!」と語る。ワロタ。
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