ミーハー女子大生

アメリカン・スナイパーのミーハー女子大生のレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
4.5
この作品は、イラク戦争の英雄であるクリス・カイルを描いた作品です。
しかも描く人物は、この映画の脚本完成の翌日、PTSDに苦しむ帰還兵を手助けする活動中に、助けようと思っていた相手に射殺されたと言う「非の打ちどころのない英雄」なのです。

過激な反戦主義者の中には、誤解しか産まず、反感しか買わない言動を取る人がいます。
この映画を非難する為に発するクリス・カイルを貶める言動がこれに当たるでしょう。
カイルが原作本の中でイラク人を「野蛮人」と呼び「私が殺したのは悪党だけだから、何も後悔していない。(仲間を助けるために)もっと殺せばよかった。」と公言しています。

だから、カイルを「レイシスト」と非難し「ハリウッドによる戦争美化は見たくない」と言う人もいます。
これに反発するのは兵器産業の人だけでは無いでしょう。
普通の、良心ある人の反感を買ってどうやって自分の主張を通せると思うのだろう?
クリントは言っています。
戦争は反対だが兵士は尊敬していると。

正しい戦争映画は戦争の悲惨さだけを描くべきであり、英雄的な行動を称賛するべきでないとする反戦に関して原理主義的な発想をする方は、当然の如くこの映画を非難するでしょう。
この映画は、戦争の英雄を描いてはいますが、それによって失うモノも非常に丁寧に描かれています。
エンドロールが無音であることで、様々な葛藤が頭の中でぐるぐる回り、混乱します。
それが、この映画の鑑賞の重要な所であると思います。

知的な想像力を働かせれば、単純なアメリカ万歳映画、戦争美化映画などと決して思えないと思います。。。

私が興味深かったのは「クリス・カイル」の人物像です。

「強きモノは弱きモノを助ける義務がある。」

真剣にそう思っている本物の善人なのです。
そんな善人がシールズの訓練を受けます。
普通の善人程度の精神力では、戦争の悲惨さには耐えられないでしょう。
だから、この手の訓練では徹底的に洗脳も行っています。
これは兵士を強くするためであると同時に、悲惨な現実に精神が壊れないようにする方便でもあります。

最初の「ツアー」で戦車隊を守る為、少年と女性を射殺します。
最後の「ツアー」ではロケット砲を抱えようとする少年に、止めるよう何度も祈るシーンがあります。
彼の精神も限界だったのでしょう。
どのような訓練や洗脳も人としてまともにいられるのには限界があります。
彼が善人であり、仲間を大切にし、同時に家庭を大切にする人であれば、その葛藤は更に深刻になります。
戦争はそんな典型的な善人に何を強いたのか、この映画はそこをリアルにドラマチックに描写しています。

カイルの焦燥して行く過程を完璧に演じたブラッドリー・クーパーは、体重を20kg以上増量してカイルの歩き方やしゃべり方まで真似て演じていたそうです。

イラク人から見たら、米兵こそ「野蛮人」であり「悪人」であるのは論を待ちません。
互いに、そのような兵士が不必要な現実を作る努力こそ大事なのです。
この映画でも描かれている憎しみや恨みの連鎖を明確に否定する思想を広めなければなりません。
私はエンドロールの静寂の中で強く思いました。

ストーリー 5
演出 5
音楽 4
印象 4
独創性 4
関心度 5
総合 4.5