ミーハー女子大生

ずっと独身でいるつもり?のミーハー女子大生のレビュー・感想・評価

ずっと独身でいるつもり?(2021年製作の映画)
3.0
【あらすじ】
10年前に発表したエッセイが思わぬヒットとなり、一躍有名作家なった本田まみ(田中みな実)。
生きづらい女性たちの本音を代弁し読者の支持を集めてきたが、近ごろはヒット作を書けず作家活動は迷走気味だった。
さらに36歳で独身であることを周囲から「一人でかわいそう」と心配され、結婚を前提に交際している年下の恋人とはすれ違いも多い。
キャリアや今の暮らしに不満はないものの、まみは「ずっと独身でいるつもり?」という周囲からの「雑音」に揺れ動く。

【感想】
「孤独死は怖くないけど、一人で生きていくのが怖い」
この映画を見た時に最初に惹かれた言葉。
死んでいった先は不明で、考える余地も必要性も低い。
一方で、生きていくことは安易に想像できる。
紐解く上で重要になるのは、この場面だろう。
映画終盤で、結婚して幸せになれないことを知った由紀乃が「死にたい」と叫び、自転車を途方もなく走らせた場面だ。
この場面で生まれた死への渇望は、死よりも生への恐怖が上回ったことを示していると思う。
では、死を選ばずに孤独という恐怖、不幸な状態になりたくないという願望はどう叶えればいいのか?
それがこの映画で伝えようとしているメッセージだと私は思う。

映画の主題
この映画自体は、これまでの時代の型に沿う、もしくは前時代的な生き方に反発して生きること、どちらにも苦しみがあることを、鑑賞者に提起している。
だから、映画のタイトルである「ずっと独身でいるつもり?」という呼びかけは、「(やがて不幸になるにもかかわらず)ずっと独身でいるつもり?」という世間の偏見に対して、
「そもそも独身でいることは、幸福値に対して影響を与える必要・十分条件ではない」という意見を述べている映画に思える。

その主張が顕著に現れているのはこの場面ではないだろうか。
中盤でまみの母が放った言葉。
独身でなくても、一人で生きていく覚悟が必要なのだという諦めと愛情とエゴと無念、言葉にしきれないほど多様な気持ちに包まれた、その言葉だ。

男性軸の人生が基本になっている日本では、自分の主張を押し殺してはいけない。
彩佳が自分の時間を取れなくて苦しんでいるにもかかわらず、それを主張できずに自分の首を絞めていた場面も分かりやすい例だったように。
つまり、家族になろうとも、人は誰しも自分の人生を一人で生きていて、その横に他人の人生があるだけで、自分の幸不幸の責任を他人は背負ってくれない。

だから、「一人で生きていくのが怖い」に生じている孤独という恐怖は、結婚しても独身でいても取り除けないものだと受容するしかない。
そんなことを偏見ばかりの世の中に教えてくれているように感じる。

そして、不幸な状態になりたくないという願望は、他の人生と比較して得る幸福を捨てることから始まるものだと言いたいのではないだろうか。
SNSの描写がわかりやすく、実際の幸福と比例していないことを示していた良い例だったと思う。

きらきらしてる側の苦しみ
美穂は女性優位に見える関係性を築いている存在である。
夜のアンパンマン。
印象的な言葉。
狡猾的なp活・ギャラ飲み女子を、健気で自己犠牲的なキャラクターに喩える。
ハリボテの幸せに風を吹かせ、中身の骨組みの弱さを実感させるような行為だ。

ここに肝があるように感じる。
他の3人だけでは、独身・既婚者のバイアスを剥がせるが、性による立場の優位性が幸不幸を左右するというバイアスは剥がせない。

男性側ですら生き残るために必死
単なる独身・既婚が幸不幸を左右する問題ではないように、男性・女性でという区分も幸福度を左右する絶対的な要素ではない。
つまり、男と女という性による優位性が社会的にそれぞれ存在していたとしても、幸不幸には直接関与しない。
むしろ苦しみはつきもので、不幸と共に歩みながら、幸福を目指すしかない。
そんな人生において大事な価値観を、現代の我々に生じている偏見を取り除きながら伝えてくれていると感じた。

この映画では生きていくこと自体の怖さへの向き合い方を教えてくれている。
私たちは、平行線上で生きている他人と、たまに交信して幸せのために助け合ったり、支え合ったりする。
だけどそれは、交信する程度のことでしかなくて、自分の道を暗くすることも、途絶えさせることも、光を与えることも、大きく変えていくのは自分でしかできない。
だから、つらいことがあっても、死にたいことがあっても、光る可能性があるなら、光らせるために自分の時間を使って、平行線上にある他所を見ずに前を見て、歩ませてみよう。

逞しく生きたら幸せになったまみや彩佳みたいな存在もいる。
美穂や由紀乃のように、これから始めてみる人も沢山いるんだから。

この映画から、幸せを掴むことは不幸がなくなることではないと分かった。
自分の幸せを見つけることも、周囲との比較やカテゴライズによるバイアスを解いていかないと出会えない途方のないものだと。

ストーリー 3
演出 3
音楽 3
印象 2
独創性 3
関心度 4
総合 3.0

8/2024