ミーハー女子大生

前科者のミーハー女子大生のレビュー・感想・評価

前科者(2022年製作の映画)
3.4
【あらすじ】
罪を犯した者や非行歴のある者の更生、社会復帰を助ける保護司の阿川佳代(有村架純)は、さまざまな「前科者」のために日々奮闘していた。
彼女が保護観察を担当する男で、職場のいじめにより同僚を殺害した過去のある工藤誠(森田剛)は、実直な生活態度で社会復帰も間近と見られていた。
しかし、彼はある日突然姿を消し、再び警察に追われる身となってしまう。
一方そのころ、街で連続殺人事件が発生し、捜査の進展につれ佳代の過去が明らかになっていく。

【感想】
決して「面白い」という作品ではないのだが、胸に迫る作品だった。

人は誰しも罪を犯しながら生きている。
大きな罪を犯した人間、あるいは(動機は責められない行動であっても)結果が法に触れるものとなってしまった時は、「前科者」となってしまう。

誰もが罪を背負っているはずだが、「前科者」というレッテルが着くか否かで後の人生は大きく変わる。
「前科者」は生きて行く上で大きなハンデを背負う。
「法を犯したのだから自業自得」と言ってしまえばそれまでだが、「前科者というだけで社会が斬り捨てて良いものか?」ということを問い掛けられる。

そして、「前科者」も更生して、幸せになって欲しいと願う保護司にスポットが当てられる。
本作で一番驚いたのは、保護司という仕事は公的なものでありながら、無報酬ということだ。 
日本にどれだけの保護司がいるか知らないし、全ての保護司が本作の佳代ほど保護対象者に心を砕いているとは思わないが、仮に事務的にこなすつもりでも安請け合いできるような仕事ではない。 
それこそ「前科者」なので、会うだけでも怖いと思うことも有るだろうし、特に対象者に生活を改めさせる必要が生じた場合など(頻繁にありそうだ)は、それを話すのはどれだけ気が重いだろうかと想像しただけで嫌になる。 
保護司が出所したばかりの元受刑者に殺されるのは滅多に起きないことだとしても、そんな恐怖心に苛まれることだってあるはずで、頼まれても私には出来ない。

でも、そういう人が99%ではないだろうか。
そんな大変な仕事がなぜ無報酬?
なんか凄く理不尽に思えるのだが、逆に報酬目当ての人には絶対務まらない仕事だから徳の高い人だけに引き受けてもらうための制度なのだろうか? 
それを知ると、(会ったことは無いけど)保護司の方々には頭が下がるという思いが急に湧き上がった。
世の中には絶対必要な存在だと思うし。

そんな保護司佳代のクライマックスでのセリフが胸に刺さった。
程度の差はあれど、きっと全ての保護司の方々は、元受刑者に温かい眼差しを向けているに違いないので(それでなければ務まらないはず)、佳代のセリフは保護司の方々の気持ちを代弁しているのだと思う。

私には佳代のように元受刑者に接することは無理だが、この先そういう人に出会う機会がもし有ったなら出来るだけ先入観を捨てて接しようという気持ちにはさせられた。

作品全体の感想だが、設定、ストーリーは良く練られていると思う。
展開に無理が無い。
工藤が弟を庇う気持ちに「警察がこんな簡単に騙される?」と一瞬思ったのだが、そこも納得の結末。
さらに、ミステリー作品のように「事件解決でEND」ではなく、後日談で締めくくられるラストも秀逸。

最後に役者について触れると、元受刑者役の森田剛は、無口で不器用で直情的で、かつ前科者らしい暗さと不気味さ(こういう先入観がよろしくないのだろうが)を醸しながら、実は実直な工藤という男を完璧に演じていた。

その人の立場に立って考えようとすること、他人に寄り添えることの尊さ、そんなことを考えさせられる作品でした。

ストーリー 3
演出 3
音楽 3
印象 3
独創性 4
関心度 4
総合 3.4

10/2024