Eryyy678

アメリカン・スナイパーのEryyy678のレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
4.0
「英雄」とまで謳われ、イラクで200名近くを殺害した実在のスナイパー″クリス・カイル″を描いた本作。

アメリカのエリート兵クリス・カイルの視点で描かれるので、感情移入からアメリカ側を応援したくなるような構図にはなっているけども、イラク(もとい、その地で戦うイスラム勢力)側が悪か、あるいはアメリカが正義かどうかという点はそれほど重要でないように感じる。
一人のアメリカ人スナイパーが、イラクの地で果たした使命と、背負った苦しみ。「兵士」としての自分と、子を持つ「父親」としての自分。あるいは「夫」として。それら様々なものを背負った一人の人間の物語こそが、この映画の核となるものなのかなと。
そしてイラク人を「野蛮人」と評した彼を責めることなども出来やしない。
戦争を決めたのは政治の責任であり、そして一介の兵士たるカイルは、戦う以外の選択肢がないのは当たり前の話なのです。たとえそれが、武器を手にする子どもを射殺することになったとしても。

原作を読んでおいたほうが、主人公の心情がすんなり入ってくるかもしれません。むしろ映画は多くを語りすぎないが故に、彼の苦悩というものがどれほどのものなのか、想像を働かせる余地が多い。
主人公にとっての「罪の意識」とは、敵を大勢殺害したことではなく、仲間を守れなかった、仲間を死なせてしまったことによるものが大きいのでしょう。
そして彼は、もし自分が神に裁かれるのなら「イラク人を大勢殺害したこと」ではなく「仲間を死なせてしまったこと」こそが、神から罰せられると考えている節がある(原作の話になりますが…私はこの章を見て、はっとさせられた。人によって″罪と罰″の意識の形は異なる)


イラク人は、彼を殺せなかった。
しかしまあ…現実とは、何という皮肉な話でしょう。クリス・カイルを殺したのは、敵ですらなかったのですから。
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