J四郎

アメリカン・スナイパーのJ四郎のレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
4.5
クリント・イーストウッド作の戦争映画。
米軍史上最多の射殺数を持つ伝説のスナイパーの物語。
これは実話ベースのお話です。
主演はこの役のため肉体を鍛えまくって挑んだブラッドリー・クーパー。ヒゲ面でムキムキなんで、最初観た時誰か分からんかった。

戦場の緊迫感溢れる銃撃戦などエンターテイメント性もある。
とはいえ、普通なら劇的に盛り上げるようなクライマックスや、分かりやすい感動に仕上げる場面でも、どこか外している。
それ故に決して戦争賛美の映画ではない。

これって実在の人物の映画なので主人公を一応はヒーロー的には描いている。
この人、過去シーンでいかにもアメリカ的価値観のオヤジに育てられておる。人格形成に影響を及ぼした事は間違いない。
時間が経過して、ロデオに熱中して彼女をほったらかしにしていた話がある。ここが後の伏線になってると気付いた。

そういえば劇中に「パニッシャーMAX」のコミックが登場している。
公開当時、分からんかったが最近、翻訳版が出たので、ああ~これってそうやったんか!と今になって分かった。
カイル達の隊の車や、彼らの装備にもパニッシャーのドクロマークがペイントされている。

パニッシャーって法で裁けないワルを殺しまくるダークヒーローだ。
シールズの彼らも敵を蛮人と呼び、殺す。
この人ら、パニッシャーを気取り自分をヒーロー化することによって、人殺しの罪悪感を緩和してるんかな~と思ってみたり。
まあ、劇中でそこには触れてないので想像するしかないが。

この作品は戦争は兵士の家族をも巻き込み、その犠牲を描いているって特典映像でイーストウッドが語っていた。
カイルは劇中で戦場と家庭を行ったり来たりする。
一方で次々と敵を撃ち殺す非情のスナイパー、片や家族を愛するいいパパの顔もある。それが交互に繰り返される。

次第にPTSDに蝕まれるカイル。妻はもう戦争に行くなと言うがそれでも戦場へ帰ってしまう。
それは最初の頃、ロデオに夢中で彼女に愛想をつかされた姿とダブる。
こんなの他で何か観たな~と思ったら、そうか「ハート・ロッカー」だ!
今回、この場面を観直すとあっちの映画の疑問も解けた気がする。
ここは戦争だから理解し難いのであって、仕事や趣味に置き換えてみたら少しは理解できるかも?

演出も細かい。
戦場の乾いた銃声を散々聞かされるので、日常シーンではカイルどころかこっちまでちょっとした音に敏感になってくる。
葬儀シーンでは銃声にビクっと反応する一般人。普段あまり気付かんかったけど、そりゃ銃声に慣れてなかったらそういう反応するわな。

カイルはそれこそ超人的なスナイパーっぷりを見せつける。
理念も価値観もアメリカンヒーローそのもの。
しかし、そのご立派な姿は直接的または暗喩的描写によって次第にぶっ壊されていく。
製作途中でああなってしまったので、ラストも衝撃的な変更が加えられている。
注意深く観るとこりゃとんでもなく皮肉に満ちた映画ですわ。
J四郎

J四郎