曇天

アイアムアヒーローの曇天のレビュー・感想・評価

アイアムアヒーロー(2015年製作の映画)
4.0
序盤の日常シーンは邦画的な演出のたどたどしさがチラつくんだけど、進むにつれて細部のアラがだんだん気にならなくなる。これって演出の上手い部分が下手な部分に勝ってるんじゃなくて、脚本が強引に引っ張っていく感じ。

ゾンビが街中にあふれ出すシーンのエスカレートっぷりはスピルバーグの『宇宙戦争』を思い出す。芸能人と言われるようなタレントをゾンビ役に使うやり方は、よく知っている人がゾンビになってしまう恐怖を描く上ではとても正しいと思う(笑。

ゾンビ映画のほとんどがテーマなんか二の次で、どんなゾンビで怖がらせてやろうかという設定のアイデア勝負になってると思うんだけど、本作はその中では突出してテーマ性に寄っている作品になっている。まあ大人気コミックの映画化だし、よくあるゾンビ映画とは違って金がかかってそうだなという事が画面上からも伝わってくる。ただ外側だけで喜ばせようとするゾンビ映画と同じようには作れないよなぁという気負いが『アイアムアヒーロー』には漂っている。
別に非難したいわけじゃないんだけど、ゾンビ映画のほとんどは低予算でやっているのに、最初から人気タイトルで潤沢な製作費があってクオリティもお墨付きの『アイアムアヒーロー』は凄く贅沢な環境で撮られた映画なんだよなという複雑な気持ちなのです。『アイアムアヒーロー』を観た大勢の日本人はどれだけゾンビ映画を観たことがあるんだろうかーとか。

まあそういう感傷もどうでもよくなるくらいにこの映画はどのゾンビ映画よりも面白いんだからしょうがない。今まで腐るほどゾンビ映画が作られていてなぜ『アイアムアヒーロー』が作れなかったのか。それほどの快挙だし、これこそずっと観たかったゾンビ映画だ。テーマ性に寄っているにも関わらず極限まで歪でリアルで禍々しいゾンビを作り込んでて、見たことない数のゾンビ虐殺をする。サスペンス映画等と違って話がきっちりまとまってない所までまさしくゾンビ映画。ラストシーンは「これはゾンビの話ではない」と言われている気がするのが日本的で、だけどゾンビものじゃないと作れない気迫が十分にある。

こういう映画ちゃんと作れんじゃん! 邦画! 最初から作れよ(^ ^)
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