オレンチ

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)のオレンチのレビュー・感想・評価

3.8
全編カット割りが無くワンシーンのように撮られていることで話題になった本作。
実際にどんなものかと観てみると成る程、納得。
定点カメラをうまく利用しましたね。シーンとシーンの間をこういった手法で繋げることはよくあるけど、全編通して徹底されてる。次はどのように繋げてくるのかという楽しみがある。
それともう一つ。登場人物の後方、いわゆる三人称視点のような映し方で人と人のスイッチングが非常に華麗。
しかもこの三人称がサラウンドと相性が良く、マイク・シャイナー(エドワード・ノートン)がサム(エマ・ストーン)を後ろから話しかけるシーンなんか本当に後ろからマイクに話しかけられているようだった。

ただぶっちゃけ、カット割りがほぼ無い120分はかなーーりエネルギーを消費した。
息継ぎの出来ない水泳、ゴールまでの距離が分からないマラソンみたいな。
本作の編集は紛れも無く素晴らしく、話題に成るべくしてなっているが、カット割りも大切なんだなーと実感した。

肝心の内容の方はというと、タイプキャストに悩めるおっさんの話。
会話の中で飛び交う俳優たちの実名。俳優から見た俳優像。映画俳優と舞台俳優。ハリウッドとブロードウェイ。
それぞれが互いにどう思っているか、歯に絹着せぬ脚本が、内部事情を知っているほど面白い。
特にメインキャスト達の経歴に詳しければ、詳しいほど深い味わいがある。
主演のマイケル・キートンは劇場版版の初代バットマン。
そのあとを継ぐジョージ・クルーニー。
ハルクを降板したエドワード・ノートン。そのハルクは今やエンターテイメントの頂点とも言える『アヴェンジャーズ』のメインキャスト。
社会派戦争ドラマ『ハートロッカー』で脚光を浴びたジェレミー・レナーでさえ今やヒーローを演じている。
芸能界の内側を露骨に批判した風刺。
ヒーローってやっぱりタイプキャストになりやすいんだろうな。
ていうか、劇場公演一発目の客!メガネのおっさん、マーティン・スコセッシ!本当に来てるじゃんか!笑

ただ、1ヒーローファンとしては綺麗事だろうがヒーローはヒーローであってほしい。
そんな僕の想いは合間に挟まれるリーガン・トムソンの空想の世界で補完され、ラストで完全に救われた。

あとはご想像にお任せします。的なラスト、けっこう好きだ。