1980年代、ニカラグア事件を背景に一人の女性ジャーナリストが国家ぐるみの陰謀へと巻き込まれていく様を描いたのが本作『マクマホン・ファイル』です。
まず大前提として背景となっているニカラグア事件は史実に基づいていますが、その渦中で描かれる人物の大半はフィクションです。
故にエレナ・マクマホンもトリート・モリソンもリチャード・ディック・マクマホンも実在の人物ではありません。
本作はジョーン・ディディオンが執筆した同名の小説を原作としており、原作の『マクマホン・ファイル』はニュージャーナリズムの語り口を借りてアメリカ政府を痛烈に批判した作品です。
ニュージャーナリズムとは取材者であるジャーナリストが、ある種で物語の主人公のように真実を語る方法で、文豪のゲイ・タリーズは「ニュージャーナリズムは、要は、ストーリーテリングのことだ」と語ります。
例えば近年で言えばハーヴェイ・ワインスタインの性暴力を明るみにした一部始終を記録した『その名を暴け』や『ノマド:漂流する高齢労働者たち』などはニュージャーナリズムと言えるでしょう。
そんな経緯を持った本作ですが、あまりにも説明不足ですし物語に観客を引き込もうとする工夫も全くと言って良いほど感じられません。
ニカラグア事件のことについて説明する気が全くないので、歴史を知らなければ国家間で何が起きているのか理解することは不可能に近いです。
実際僕も初見の時は全く理解できず、少し調べてから2回目を鑑賞することでいくらか背景については理解することができたくらいです。
ただ理解できなかった部分が分かるようになったから映画が面白くなったかというと、そういうわけでも無く。そもそも各シーンで起きる出来事や後につながる伏線のようなものについての説明が、至極曖昧に語られてしまっているので登場人物だけが緊迫な状況に置かれ、観客は完全に置いてけぼりとなり、ただ時間が過ぎているだけのように感じました。
原作を読んでいないので確かなことは言えませんが、有名俳優の力だけを借りた原作のダイジェストのような映画だったのかなと思います。